人それぞれに、思い入れのある曲というものはあるものだ。フィリップ・スパーク(b.1951)の「ジュビリー序曲」はそんな1曲。初めてスパーク作品を聴いたのは中学3年の頃の「ドラゴンの年」だったが、自分自身が演奏に参加したスパーク作品が、この「ジュビリー序曲」だった。高校1年の秋に、他校の吹奏楽部との合同演奏で武蔵野音大のベートーヴェン・ホールで地区音楽会のステージに立った時の曲で、今もって懐かしい。タイトル通りの冒頭の輝かしいファンファーレ、中間部の美しい旋律、そして絶え間ない変拍子というスパークの特徴を備えた代表作の一つといえるだろう。愛奏されるがゆえに、現在所有しているディスクでも金管バンドから吹奏楽、はたまたブラス・アンサンブル版の3種類が存在していた!今回はそんなディスクを4枚取り出し、それぞれの個性を味わってみた。(ジャケット画像:左上より時計回り)
【英国式金管バンド版】
小澤俊朗指揮 東京ブリリアント・ブラス
(1991年録音、国内盤)
【吹奏楽版:セッション録音】
フィリップ・スパーク指揮 東京佼成ウィンド・オーケストラ
(1992年9月録音、普門館にて収録、佼成出版社国内盤)
【吹奏楽版:ライヴ録音】
時任康文指揮 大江戸ウィンド・オーケストラ
(2000年9月22日録音、サントリー・ホールにてライヴ収録、IEJ国内盤)
【ブラス・アンサンブル版】
ベルンハルト・ギュラー指揮 ジャーマン・ブラス
(1986年録音、EMI国内盤)
曲の歴史をひもとくと、ブラスバンド版は、作曲当時のオリジナルだけに外せない。1983年に英国の金管バンド(THE GUS BAND)によって初演されており、かつては、スパーク自身もかつてこの楽団でコルネットを吹いていたという。何よりコルネットの柔らかい音色が全体の響きと調和して美しい。ここでは英国式金管バンドスタイルの「東京ブリリアント・ブラス」盤がそんな演奏を聴かせてくれる。指揮は全日本吹奏楽コンクール5年連続金賞等、輝かしい実績を誇る神奈川大学吹奏楽部を育てた小澤俊朗氏。
「東京佼成ウィンド・オーケストラ」盤は、吹奏楽版の要望に応えて1984年に出版されたとの事だが、自分にとっては初めてこの曲の存在と魅力を教えてくれた意味で、お手本ともいえる演奏。今聴いても新鮮。指揮がスパーク自身である点もポイントが高い。
「大江戸ウィンド・オーケストラ」盤は以前、「トランペット吹きの休日」でもエントリーしたアルバムに収録。公演の1曲目にプログラミングされており、ライヴ・ステージにふさわしいオープニング曲となっている。「大江戸」というユニークな名前は、常設楽団ではなく、主にスタジオ・ミュージシャンによるプロ集団。トランペットセクションが多少、ハイトーン気味なあたりが、いかにもスタジオ・ミュージシャンらしい。それもそのはず、メンバーの中には、エリック宮城氏の名前も!全体的にガッツのある演奏で、ライヴならではの熱気が伝わってくる。サントリー・ホールという空間が何とも贅沢だ。
2007年のミューザ川崎での来日公演が記憶に新しい「ジャーマン・ブラス」盤は、唯一の版だけに、ある意味、レア盤といえるだろう。メンバーのハンス・ヴィルフ(トランペット)が友人の指揮するブラスバンドの演奏会で聴き惚れてしまい、ジャーマン・ブラスの為にアレンジを施したヴァージョン。金管バンド版・吹奏楽版と調性も異なるが、ピッコロ・トランペットも加わり、いずれの版にも負けない輝かしいアレンジと演奏に仕上がっている。吹奏楽版の2年後に録音されているというそのスピードに驚かされる。そんなジャーマン・ブラスのこだわりが素晴らしい。