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以前より、好きな番組の一つに、NHKで毎週放映されている「世界ふれあい街歩き」がある。映像と音楽が絶妙にマッチした番組で、映像にぴったりな村井秀清氏のサントラがその場の雰囲気をより盛り上げてくれる。そんな番組に倣い、昨夏のクラシック巡礼の旅の感動を留めておくべく、旅路で聴いた曲の数々を。移動中に、その国にゆかりのある曲をi-podで聴くために、出発前にi-tuneに4つの国々のプレイリストを作成していた。今回は一つ目のプレイリストであり、最初の訪問国であるハンガリー編を。i-podにより、大量のCDを持ち出すことなく、モバイルできるようになるなんて、便利な時代になったものだ。“ハンガリー”の名前がつく曲の代表、という事で、まずは「ハンガリー舞曲」から。(ジャケット:両画像とも左上から右回り)

【ブラームス:「ハンガリー舞曲集」より】
○ネーメ・ヤルヴィ指揮 ロンドン交響楽団
 (1988年録音、セント・ジュード・オン・ザ・ヒルにて収録、CHANDOS輸入盤)

○ジョルジュ・プレートル指揮 シュトゥットガルト放送交響楽団
 (NOVALIS海外盤)


ヤルヴィ盤は、以前、ブラームスの交響曲集でも名演を聴かせているだけに、即決でプレイリスト化。その颯爽としたテンポ感の運び方の巧みさは、この「ハンガリー舞曲」でも健在。しかし、そんなヤルヴィ盤を上回ったのが、プレートル盤だった。プレートル(b.1924)といえば、2009年と2010年のウィーン・フィルとのニューイヤーコンサートでも話題になったフランス出身のマエストロ。洗練されたヤルヴィ盤に対し、プレートル盤には、粘着性がより感じられ、ハンガリー舞曲本来の味わいに近いように思う。ここでは、デュナーミクやアゴーギクが自在に駆使されているだけでなく、カンタービレもたっぷり。「第4番」は、7月のN響公演でアンコールに取り上げられた事からお気に入りとなった曲だが、このプレートル盤は、そんなN響での公演や、これまで聴いたアルバムよりも突出した出来になっている。シュトゥットガルト放送響の柔軟性ある技量の高さにも感服。改めてプレートルの素晴らしさを自分の耳で再確認できた一枚。隠れた名盤といえるだろう。

○レナード・バーンスタイン指揮 バイエルン放送交響楽団
 (1983年11月録音、エルケル劇場、ブタペストにて収録、HUNGAROTON国内盤)


バーンスタインが、1980年代に友好関係のあったオケの一つ、バイエルン放送交響楽団を率いてブタペスト公演を行った際の貴重なライヴ録音。ハンガリーだけに自国の国営レーベルHUNGAROTONが収録したというレアな音源だ。ここでは「ハンガリー舞曲第6番」の一曲が、ライヴ・アルバムの最終曲として収められている。アンコール曲なだけに、バーンスタインもオケもリラックスしており、実に活きのいい演奏。聴衆の興奮ぶりが伝わってくる。

○アダム・フィッシャー指揮 ブダペスト祝祭管弦楽団
 (1985年録音、HUNGROTON輸入盤)


ブタペストの免税店で買ったのがイヴァン・フィッシャー(b.1949)盤。移動中のバスの車中でも、ガイドがこのフィッシャー盤をBGMにかけていたのを思い出した。「第4番」はフィッシャー自身が手を加えたフィッシャー版。ヴァイオリンのソロが加わる等、どことなく哀愁が漂う。また、全編を通じ、ツィンバロンを多用しているのも特徴で、まさにブラームスの作品を、よりハンガリー寄りに近づけたアレンジといえるだろう。今や巨匠の仲間入りをしたフィッシャーの若かりし頃の録音。

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【リスト:「愛の夢」「ラ・カンパネラ」】
○ホルヘ・ボレット(ピアノ)
 (1982年録音、キングスウェイホールにて収録、デッカ海外盤)


リストの代表曲である「愛の夢」と「ラ・カンパネラ」には、キューバ生まれの巨匠、ホルへ・ボレット (1914-1990)による演奏を。録音当時、68歳。年齢もあるのだろう、殊更にテクニックをひけらかすタイプではなく、作曲家の詩情的な側面を感じさせる演奏。彼はリストの弟子のモーリツ・ローゼンタールに師事していた、いわば孫弟子にあたるだけに、リストには特別な想いがあったに違いない。
レコーディングではリスト自身が愛用したベヒシュタイン(コンサートグランドピアノ EN‐280)が用いられている。ボレット自身も愛着を持っていたピアノなのだろうか、分離感にすぐれ、ベヒシュタインの良さを現代に伝えてくれる。

【コダーイ:組曲「ハーリ・ヤーノシュ」よりウィーンの音楽時計】
○ジョージ・セル指揮 クリーブランド管弦楽団
 (1969年1月録音、ソニー国内盤)
○アンドリュー・デイヴィス指揮 トロント交響楽団
 (1987年頃録音、CBC海外盤)


コダーイ(1882-1967)の代表曲、組曲「ハーリ・ヤーノシュ」~「ウィーンの音楽時計」は、小学生時代に購入した名曲アルバムに収録されていた曲で、昔から親しんできた曲。コルネットが奏でる主題がかわいらしく、チャイコフスキーの「くるみ割り人形」のようなメルヘンな世界が漂う。
旅には、母国ハンガリー出身の巨匠、ジョージ・セル(1897-1970)盤と、最近のお気に入りであるアンドリュー・デイヴィス(b.1944)盤の2種を持参。ジョージ・セル盤は、ステレオ全盛期の時代の録音の影響もあるのだろう、音源がステレオ感がいっぱいに広がる。またここでのヴィヴラフォンのきらめきも、音楽時計の音色を奏でる重要な役割を果たしており、この曲の雰囲気をより醸し出されている。
一方のアンドリュー・デイヴィス盤は、彼がトロント響に在任頃にレコーディングした名曲アルバムの収録曲。ジョージ・セル盤に比べるとスマートな演奏だが、こちらも好感が持てる。この曲の魅力を再認識させてくれた。

【バルトーク:「管弦楽のための協奏曲」~終曲】
○ラファエル・クーベリック指揮 バイエルン放送交響楽団
 (1978年5月30日録音、ミュンヘン・レジデンツにてライヴ収録、オルフェオ海外盤)


バルトーク(1881-1945)の傑作、「管弦楽のための協奏曲」から、「終曲」を。バルトークの緻密に計算つくされたオーケストレーションを感じ取れるだけでなく、演奏するオーケストラの技巧レベルが試される曲だけに、一つのテストピースともいえるだろう。
i-podには、60~70年代にかけ、バイエルン放送交響楽団を世界のトップ・オケにのしあげたクーベリックが、79年に首席指揮者の座をおりる一年前に指揮した貴重なライヴ音源を選んだ。
ライヴ特有の緊張感が漂いながらも、安心して聴けてしまう演奏。技巧というステージを超えた所にある一流オケだからこそ、なせる技なのだろう。収録会場がレジデンツ(宮殿)ゆえに、ふくよかな残響となっているのも嬉しい。時間があれば、バルトーク記念館にも立ち寄りたかったものだ。