続いて米国オケ編を。米国オケによるディスコグラフィーの中にはブルーノ・ワルターやジョージ・セルを筆頭に、そうそうたるマエストロの顔触れが並んでおり、それゆえ名盤にも恵まれている。欧州でキャリアを積んだ巨匠達が、1950年代前後から米国オケの主要なポストに就いていた事もその要因だろう。米国オケのカラーにモーツァルトをどう馴染ませていくかが聴き比べのポイントとなりそうだ。(ジャケット画像:左上より右回り)
■ブルーノ・ワルター指揮 コロンビア交響楽団
(1960年2月録音、リージュンホール、ハリウッドにて収録、SONY海外盤)
中学生の頃からワルター(1876-1962)にのめりこんで以来、よく聴いていた音源の一つ。晩年のワルターの為に編成されたコロンビア響との共演で、全盛期に比べると体力がテンポ感にも反映してか、ぐっと低い重心のジュピターだが、彼がステレオ録音で後世に音源を残そうとした意図が汲み取れる演奏で、全楽章を通じ、一音一音、丁寧に奏でられている様子が窺われる。録音は半世紀を経ているものの、今も新鮮。なお、ジャケット画像には紙ジャケット盤を取り上げているが、リマスター音源は初期盤の方が臨場感に溢れており、鮮度が高い。
■ジョージ・セル指揮 クリーヴランド管弦楽団
(1963年10月録音、SONY海外盤)
これぞオーケストラ・ビルダーたるセル(1897-1970)ならではの職人芸を感じさせる演奏。欧州で培われた経験と技法がクリーヴランド管の演奏に全て凝縮されている。その一つの典型が第4楽章。当時、セル&クリーヴランド管以上の精度の高さを誇る米国オケはなかったと思わせる究極のアンサンブル。彼らの音から自信のみなぎりを感じるのは、日々の鍛錬の賜物なのだろう。名盤と呼ばれる所以が分かる歴史的な音源。
■レナード・バーンスタイン指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック
(1968年1月録音、フィルハーモニック・ホール、ニューヨークにて収録、SONY国内盤)
当時、バーンスタイン(1918-1990)は50歳。1958年からニューヨーク・フィルの音楽監督に就任した黄金期の録音。フレーズの処理にやや粘り気を感じるジュピターで、終楽章のエンディングで大きくブレーキをかけるあたりも当時のバーンスタインならではなのかもしれない。後年のウィーン・フィルとのライヴ盤との聴き比べが興味深い。
■オイゲン・ヨッフム指揮 ボストン交響楽団
(1973年1月録音、シンフォニーホール、ボストンにて収録、グラモフォン海外盤)
欧州のオケと縁の深いヨッフム(1902-1987)がボストン響と共演した貴重な音源。全体的に推進力に富み、ボストン響の弦セクションを堪能できる。後年のバンベルク響盤と比べるとちょっと力み過ぎと思える個所も。各声部が明瞭に聴こえ、木管の旋律も浮かび上がってくるが、ボストン・シンフォニーホールのゆとりある残響を捉え切れていないような気がするのはややオンマイクな録音のせいだろうか。
■ジェームズ・レヴァイン指揮 シカゴ交響楽団
(1981年7月録音、メディナ・テンプル、シカゴにて収録、RCA国内盤))
後年、モーツァルト没後200年記念としてグラモフォンレーベルにウィーン・フィルとの交響曲全集の偉業を成し遂げたレヴァイン(b.1943)が、ラヴィニア音楽祭の音楽監督としてシカゴ響に客演していた時期のレコーディング。実にスピード感のあるテンポ運びで、シカゴ響から勢いのある演奏を引き出しており、その後のウィーン・フィルとの一連のモーツァルトへの基礎固めになっていると考えても過言ではないかもしれない。シカゴ響のモーツァルトにはショルティ&シカゴ響の来日公演にも貴重な映像が残っているが、ブラスだけでなく、ストリングスにも強いシカゴ響の妙技が味わえる。