納涼にはスカッと爽快感溢れる曲もぴったり。朝の通勤、照り付ける強い日差しに負けじと、気分を盛り上げるのによく聴いている演奏を。作曲者ドミトリー・ショスタコーヴィチ(1906-1975)の長男、マキシム・ショスタコーヴィチ(b.1938)がロンドン響を振った「祝典序曲」。この演奏を聴いた瞬間、以前エントリーしたヤルビィ盤やロジェストヴェンスキー盤を上回る名盤だ!と思わず唸ってしまった。
○マキシム・ショスタコーヴィチ指揮 ロンドン交響楽団
('90年1月録音、アビー・ロード・スタジオNo1にて収録、Collins輸入盤)
まるでスター・ウォーズのようなスペクタクルな世界を感じる壮大な演奏。冒頭のファンファーレでロンドン響のブラスセクションがたっぷりと鳴った後、主部に入ると早めテンポでぐいぐいと進む。この爽快さは、作曲者の血を受け継いでいる長男マキシムだからこそ、なし得たテンポ感なのだろう。実際、この曲を5分33秒で駆け抜けており、ヤルヴィ盤が5分52秒、ライヴ録音のロジェストヴェンスキー盤でさえ5分43秒であることを考えると、いかに快速であるかが窺える。
ブラス陣だけでなく、木管や弦楽器も並々ならぬ集中力で、マキシム(当時52歳)の指揮に応えようとする姿勢が演奏から伝わってきて、ロンドン響のレベルの高さを改めて窺わせる。
中間部のトランペットとトロンボーンによるSoliは、祝典序曲の聴き所の一つ。こんなにも堂々と気持ちよく鳴ってくれるとは!そしてクライマックスはコーダで再び聴かせてくれるファンファーレ。ここではトランペットとトロンボーンによるバンダによって増強されたブラスセクションが、圧倒的ともいえるフルサウンドで、アビー・ロード・スタジオ一杯に鳴り響かせるのが体感できる。ここでの迫力は、レスピーギの「ローマの松」で有名な「アッピア街道の松」でのコーダ(ここでもバンダが加わる)を上回るのでは?とさえ思ってしまう。
ロンドン響にとってのアビー・ロード・スタジオといえば、インディ・ジョーンズ(失われたアーク/1981年公開)やスター・ウォーズ(ジェダイの復讐/1983年公開)を始めとして数々の映画サントラが生み出されてきたいわば映画音楽の聖地ともいえるスタジオ。それだけに、このスタジオでロンドン響のフルサウンドが聴けるのは、ある意味、映画サントラを聴くような快感もある。聴いた後はしばらくスカッと爽やか感が持続する。
実際、このレコーディングではプロデューサーにDECCAではお馴染み(最近ではLSO LIVEでもよく見かける)のジェイムズ・マリンソン、バランス・エンジニアにサイモン・ローズ('87年よりアビー・ロード・スタジオの一員で、最近では「ハリー・ポッター」シリーズ等の映画音楽も担当した上級レコーディング・エンジニア)という最高の布陣を迎えている。
なお、カップリングには交響曲第5番「革命」が。マキシムにとっても思い入れの強い曲と思われるだけに、改めて取り上げたい。マキシムの指揮は、以前スルタノフとのラフマニノフの共演盤でもエントリーした事がある。Collinsが廃盤レーベルとなってしまったのは残念だが、偉大なる作曲家の息子だけに、これからも新たなレコーディングに期待したいものだ。