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「A列車で行こう」といえば、デューク・エリントン(1899-1974)の代名詞として知られる有名曲で、もともと楽団員のビリー・ストレイホーンが作曲し、エリントン楽団によって1941年に演奏され全世界にヒットした。
自分自身も中学時代に習っていたトランペット教室でこの曲を吹いたり、同時期に購入したシンシナティ・ポップスのディスクで親しんできたが、最近、サイモン・ラトル&バーミンガム市響の名盤と出会い、再度「A列車で行こう」をじっくり聴いてみたいと思うようになった。そこで、棚からひとつかみしてみたのが、今回取り上げた7つのディスク。以下のような共通点があるのが特徴。

内4つはエリントンの生誕100周年に合わせたトリビュート的な録音となっており、そこにはラトルを始め、バレンボイムやプレヴィンなど、クラシック界のそうそうたるマエストロが参加している(バレンボイムとプレヴィンはピアニストとして参加)。また、内5つはジャズ・プレイヤーとコラボレーション。ジャンルの垣根を超え、クラシックとジャズの演奏家が同じステージに立つという点だけみても、エリントンの存在がいかに大きかったかという事が窺れる。各々の演奏を聴いてみた印象は・・・

【シンフォニック・オーケストラ版】
○サイモン・ラトル指揮 バーミンガム市交響楽団
 ('99年録音、シンフォニー・ホール、バーミンガムにて収録、EMI国内盤)


アルバム「クラシック・エリントン」の1曲目に収録。ジャズ・プレイヤーとのコラボレーション。
まさしく“シンフォニック・ジャズ”の醍醐味を味わえる演奏!ラトル(b.1955)が抜群のリズム&テンポ感を発揮し、オケのボルテージを上げる事で、ジャズ・プレイヤーもノって演奏しているのが感じられる見事なコラボ!ビートルズを生んだリヴァプールで育ち、打楽器を学んだラトルにとっては、ジャズも身近な世界だったに違いない。アレンジの素晴らしさも特筆したいが、何と、アレンジャーのルーシー・ヘンダーソン(1919-2003)はラトル夫人の父という。エリントンの生誕100周年と合わせ、今回のレコーディングにつながる要因だったに違いない。
また、バーミンガム市響とは、マーラーやストラヴィンスキー等、20世紀の作品を主要なディスコグラフィーとしていたから、ジャズを取り上げるのは自然な流れだったのかもしれない。ラトルの抜群のリズム感といえば、先日観たベルリン・フィルの映画DVDで、現代音楽のトーマス・アデスの作品を取り上げていたことにもその一端が表れているといえるだろう。

【ポップス・オーケストラ版】
○エリック・カンゼル指揮 シンシナティ・ポップス・ビッグバンド・オーケストラ
 ('88年8月録音、ミュージックホール、シンシナティにて収録、テラーク輸入盤))


アルバム「ビッグバンド・ヒット・パレード」に収録。ジャズ・プレイヤーとのコラボレーション。
中学2年の頃に購入して、当時から親しんできただけに思い出深い。通常のフル編成ではないことの表れか、名称は「シンシナティ・ポップス・ビッグバンド・オーケストラ」として記載されている。ジェリー・マリガン(バリトン・サックス)、「TAKE5」でお馴染みデイヴ・ブルーベック(ピアノ)、ドク・セヴェリンセン(トランペット)、レイ・ブラウン(ベース)の第一級の名プレーヤー達が参加している。デイヴ・ブルーベックのソロは、やはりジャズメンならではのソロ!そのノリのよさに聴き惚れると共に、ジャズならではの奥深さを感じる。ドク・セヴェリンセンのハイトーンのカッコよさには当時からシビれていた。ジャズレーベルとしても数々の優秀録音を送り出しているテラークだけに、20年が経過した今聴いても全く色褪せていない。さすが、テラーク!

○ジョン・ウィリアムズ指揮 ボストン・ポップス
 ('83年6月録音、シンフォニー・ホール、ボストンにて収録、フィリップス輸入盤)


アルバム「オン・ステージ」に収録。
上記2種のジャズ・プレイヤーとのコラボレーションではなく、メドレーの中に「A列車で行こう」が組み込まれたボストン・ポップス得意のメドレー形式による演奏。「ソフィスティケイテッド・レイディズ~デューク・エリントンを讃えて」と題され、「ソフィスティケイテッド・レイディ」~「A列車で行こう」~「ムード・インディゴ」~「スウィングしなけりゃ意味ないね」とつながるメドレーとなっている。
いずれもポップス視点でのアプローチなので、ジャズに詳しくない人でも親近感を感じられるアレンジに仕上がっているのが嬉しい。この辺り、アレンジャーの手腕も問われる所だろう。
ボストンのシンフォニー・ホールの豊かな残響と共にボストン・ポップスならではのゴージャスなサウンドが楽しめる。