先日、NHKの芸術劇場で「The King's Singers」(以下、キングズ・シンガーズ)の来日公演がオンエアされていた。キングズ・シンガーズは、高校3年時に彼らの来日を記念するベスト・アルバムを購入して以来、すっかりア・カペラの魅力にとりつかれてしまい、大学時代に合唱を始めるきっかけにもなった男性6名による英国のヴォーカル・グループ。
ケンブリッジ大学の名門、キングズ・カレッジの聖歌隊出身のメンバーによって1968年に結成されたこのグループは、当初のメンバーは全て入れ替わっていながらも、聖歌隊で培われた精緻なハーモニーは時代を超えて維持され、聴く者を魅了してやまない。
彼らの魅力の一つは、通常の男声パート(テノール×1、バリトン×2、バス×1)に加え、2名のカウンター・テノールが加わる事で、女声音域までカバーできる事だろう。また、全体の統一感だけでなく、ソロ・パートを受け持つ際の個々メンバーのレベルの高さも魅力だ。これにより、彼らのレパートリーはルネサンスものから現代のポップスまで実に多岐に渡っており、彼らの歌い口も実に柔軟性に富んでいる。
自分が所有するキングズ・シンガーズのアルバムの中から、今回は英国音楽中心のマイベスト盤をセレクトしてみたい。(ジャケット画像:左上より時計回り)
①「アニー・ローリー」
(1991年5月録音、アビー・ロード・スタジオ、ロンドンにて収録、EMI国内盤)
②「Watching the White Wheat」
(1985年録音、EMI海外盤)
③「My Spirit Sang All Day」
(1987年7月録音、・Forde Abbey、サマセットにて収録、EMI海外盤)
キングズ・シンガーズといえば英国、英国といえばイギリス民謡、という事でまずは2枚のアルバムを。
アルバム①は、東芝EMIによる日本独自企画で、日本人に馴染みのあるメロディの数々が聴ける。特にアルバムタイトルでもある「アニー・ローリー」や、「ダニー・ボーイ(ロンドンデリー・エア)」「ロッホ・ローモンド」、CMでも使用されて有名になった「サリー・ガーデンズ」の語りかけるような歌い口と絶妙なア・カペラのハーモニーは、彼らしか表現しえないものだろう。「ロッホ・ローモンド」は男声合唱のレパートリーとしてもよく愛唱されている。
なお、アルバム②には①と同じ「ダニー・ボーイ(ロンドンデリー・エア)」が収録されており、メンバーやアレンジの違いを味わうのも興味深い。個人的には、カウンター・テノールのデイヴィッド・ハーリー(b.1962)のヴォーカルがお気に入りで、彼がメンバーに加入した1990年以降のアルバムからは、カウンター・テノール陣がよりクリアになったように感じる。1992年の来日時に、メンバー全員が「徹子の部屋」に出演し、ヴォーカルによる「熊蜂の飛行」等、超絶技巧曲も披露してくれた際は、まだ30歳の若手だったハーリーもはや48歳、今年の来日公演では恰幅もよくなっており、ベテランの風格を感じさせてくれた。
また、アルバム②に収録されている「O Waly Waly」は、別名「The Water is wide」としてお馴染みで、以前本ブログでもピアノ&ベースのデュオ版をエントリーした名曲。ここでは、バッハの無伴奏チェロ組曲が一部アレンジにかんでいるのがユニークだ。
一方、アルバム③は、ホルストやヴォーン・ウィリアムズ等、英国音楽の重鎮達による貴重なアルバム。ここではヴォーン・ウィリアムズの代表作、「イギリス民謡組曲」にも使用されている「Blow away the morning dew(朝露を吹き飛ばせ)」の口ずさめるようなメロディー実に楽しい。
④「ザ・ビートルズ・コネクション」
(1986年6月、アビー・ロード・スタジオ、ロンドンにて収録、EMI海外盤)
英国編の最後は、世紀のロックバンド「ザ・ビートルズ」のカバーアルバムを。自分自身、大学時代に所属していた男声合唱団(グリークラブ)のリサイタルで、ビートルズ・ナンバーを取り上げたステージがあり、本アルバムにも収録されている「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」や「イエスタデイ」、「ガール」「エリナー・リグビー」「ミッシェル」等を歌ったのが懐かしく、練習時の参考音源としてよく聴いたものだ。ここでは、ビートルズゆかりのアビー・ロード・スタジオでの録音に加え、オリジナルを模したジャケットのイラストが印象的で、キングズ・シンガーズの名を世界に広めるベスト・ヒット盤にもなった。