ショパン生誕200周年を記念した第2弾として、「ピアノ協奏曲第2番」を。ショパンはピアノ協奏曲を2曲残しているが、今回エントリーした「2番」は実は「1番」より先に作曲されたという。特に「2楽章」はショパンの“詩人”としての一面が前面に出たロマンティシズムに溢れた名楽章。どこか、切なく、甘い調べはラフマニノフの協奏曲に通じるものもある。この楽章をじっくりと味わうだけでも意味があるだろう。今回の聴き比べに当たっては、この2楽章の表現もポイントの一つ。6名のピアニストが描く「ピアノ協奏曲第2番」をじっくりと味わってみた。(ジャケット画像:左上より時計回り)
○ベラ・ダヴィドヴィチ
サー・ネヴィル・マリナー指揮 ロンドン交響楽団
(1982年2月録音、ウォルサムストウにて収録、フィリップス輸入盤)
今回エントリーした6つの中でのマイベスト盤。ダヴィドヴィチ盤が、自分にとって初めて聴いた「ピアノ協奏曲第2番」だった事もあるが、他のピアニストのディスクも一通り聴いた後、ダヴィドヴィッチに行き着いた。
中でも「2楽章」はまさに天上の世界。ショパンの詩情がにじみ出た極上の演奏だ。以前エントリーした「幻想即興曲」で感じた優しさがここでも感じられる。フレーズの節々にショパンの繊細さ感じさせながら、女性的な演奏に陥る事なく、男性的な力強さも兼ね備えている。
残響がたっぷりととられたウォルサムストウの音場感も素晴らしい。ピアノとオケのバランスも良く、録音も優秀。
ちなみに、ダヴィドヴィチは、今年開催される第16回ショパン国際ピアノコンクールの審査員にも名を連ねている。
○クリスティアン・ツィメルマン
カルロ・マリア・ジュリーニ指揮 ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団
(1979年11月録音、シュライン・オーディトリウム、ロサンゼルスにて収録、ドイツ・グラモフォン輸入盤)
今回エントリーした中では、最も技の光る演奏。特に「3楽章」はツィメルマンの独壇上で、テクニカル面の完成度の高さに加え、魅せる要素もたっぷり。ショパンと同郷のポーランド出身の彼は、1975年に弱冠18歳でショパン国際ピアノコンクールに優勝、その3年後の録音(それでもまだ21歳!)だけに、彼のショパンに対する思いが詰め込まれた演奏なのだろう。充分な名演なのだが、後年、彼自身の弾き振りで再録音しているあたり、より完璧さを求めるこだわり志向のピアニストとみた。当時の音楽監督だった指揮者のジュリーニは、ロス・フィルから欧米のオケと変わらない重厚な響きを引き出す事に成功している。
○マリア・ジョアン・ピリス
アンドレ・プレヴィン指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
(1992年6月録音、アビー・ロード・スタジオ、ロンドンにて収録、ドイツ・グラモフォン輸入盤)
弱音から強奏まで、変幻自在なダイナミクスで、微妙なニュアンスにも富んだ演奏。ショパンの繊細な一面を見事に表現しきっており、女性だからこそ、なし得る演奏というべきか。伴奏のプレヴィン&ロイヤル・フィルも、ロンドンのオケならではの高い柔軟性が活きた見事な演奏で応えている。当時、プレヴィン&ロイヤル・フィルは、テラークやRCAがメインレーベルだったので、このグラモフォンとのセッションはレアな一枚といえるだろう。
○エマニュエル・アックス
ユージン・オーマンディ指揮 フィラデルフィア管弦楽団
(1978年2月録音、RCA国内盤)
1974年の第一回アルトゥール・ルービンシュタイン国際ピアノ・コンクール(イスラエル)で、当時25歳で優勝して以来、世界的にも著名なピアニスト。今回、取り上げたディスクの中では唯一実演(1997年のプロムス公演)に接した事のあるピアニストだけに、親近感がある。コンクール優勝4年後の29歳頃の録音だが、スケールの大きな演奏は、当時から若手とは思わせない大器を感じさせる。男性的な強靭さとテクニカルを併せ持っているが、その分、繊細さにかけては今一つといったところか。アックス自身、ポーランド出身で、ショパンは得意なレパートリーに違いない。伴奏はダヴィド・オイストラフ等、協奏曲の名盤も数々残しているオーマンディだけに、安定している。ステレオ録音後期ながら、やや音源が古く感じるのは残念。
○アンドラーシュ・シフ
アンタル・ドラティ指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
(1983年7月録音、コンセルトへボウ、アムステルダムにて収録、DECCA国内盤)
アンドラーシュ・シフにとっては意外にも珍しいショパンの録音。巨匠ドラティ(当時77歳)とシフ(当時29歳)との組み合わせにも意外性を感じていたが、よく考えたら二人とも同郷は同じハンガリーという事で納得できた。清らかで純度の高いショパンだが、パンチが弱く線の細い演奏で、個人的にはやや興に欠けてしまった。コンセルへボウのふくよかな残響を体感できるのが嬉しい。
○タマーシュ・バシャーリ
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ドイツ・グラモフォン輸入盤)
1960年代を代表する名盤といえる演奏。それは当時若手ピアニストだったバシャーリが、ベルリン・フィルという一流オケと共演した事からも窺える。テクニカル、表現力とも申し分なく、このピアニストの実力の高さを感じさせる。「2楽章」はゆりかごに揺られているかの如くで幻想的。録音がやや古いのは難点だが、中低音に重厚感を感じるサウンドはさすがベルリン・フィル。全体的にシフと同じくさっぱりした演奏に感じるのは、彼もシフと同じハンガリーの血が流れている故か?