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秋は何となく郷愁を感じる季節。今宵はそんな季節にぴったりな映画音楽を。自分にとって思い入れの深い作品、ジュゼッペ・トルナトーレ監督の「ニュー・シネマ・パラダイス」(1988)は作曲を担当したイタリアの巨匠、エンニオ・モリコーネ(1928生まれ)にとっての代表作でもあり、映画史に残る名作。
今回は原曲のサントラだけでなく、様々なアーティストが録音した7枚のディスクを聴いてみた。大好きな曲とはいえ、気付かない間にニュー・シネマ・パラダイス関連のディスクが増えていた事に自分自身驚いた(^^; 楽器や演奏形態の違いもあって、アーティスト個々の個性が感じられ、それぞれに味わい方が違ってくる、興味深い鑑賞となった。(画像:左上より時計回りで対応)

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~まずはヴァイオリン・ソロものを・・・~
○矢部達哉(Vn)
 シンフォニカ・ムジカーザ   
 (2002年7月録音、スタジオ他にて収録、SONY国内盤)


アルバム「ディア・モリコーネ」より。このアルバムではメドレー形式で「メイン・テーマ~愛のテーマ」、「過去と現在」の計2曲が収録。
演奏はNHK朝の連続ドラマ小説「あぐり」での名旋律で話題になった都響の若きソロ・コンサートマスター、矢部達哉氏によるもの。アルバム・タイトルが象徴するように、巨匠モリコーネが矢部氏に捧げた新曲「心澄みやかなヴァイオリン弾き」という楽曲も収録。これがまた心にぐっときてしまう名曲で、ついつい涙腺がゆるんでしまう。
矢部氏は「あぐり」の時と同様、作曲家の込めた思いを伸び伸びと旋律に乗せて歌わせている。この録音ではストラディバリウスで演奏しているとの事だが、その影響もあるのだろうか。
某雑誌に載っていた、矢部氏がこのアルバム収録に際してインタビューに答えた一言が印象に残っているので引用したい。

『・・・きれいなメロディを書く人は今の世の中、たくさんいると思うんです。でも、きれいなメロディというと、ともすると稚拙なものになりがち。モリコーネさんの曲は和声の微妙な感じや、心の機微に触れる苦い音とかが含まれていて、それが単なるきれいなメロディと一線を画している・・・』

録音はヴァイオリン・ソロがややオンマイク気味だが、ヴァイオリンそのものの音色を味わうには最適な一枚。
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~次はヴァイオリン界の大御所による演奏を・・・~
○イツァーク・パールマン(Vn) 
 ジョン・ウィリアムズ指揮 ピッツバーグ交響楽団
 (1996年12月録音、ハインツホール、SONY国内盤)


アルバム「シネマ・セレナーデ」より。映画音楽の巨匠、ジョン・ウィリアムズと共演した一枚。「シンドラーのリスト」のテーマで名旋律を聴かせてくれたパールマンが、ここでも慈悲深い音色を聴かせてくれている。このアルバムに収録されているのは「愛のテーマ」。このテーマはモリコーネの息子、アンドレア・モリコーネの手によるもの。実は親子の共作という意義深い作品でもあった。
オケはジョン・ウィリアムズの相方のボストン・ポップスではなく、ピッツバーグ交響楽団なのも興味深い。録音は優秀。
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~弦楽合奏によるストリングスものも・・・~
○新イタリア合奏団
 (2000年10月録音、コンタリーニ宮殿にて収録、DENON国内盤)


弦楽器の名手揃いだけに、シルクのような手ざわりの透明感あふれる演奏。映画音楽といえども、さすがお国ものの作曲家だけにリスペクトを感じる。ピアノ・ソロによるお馴染みのテーマで始まるが、ストリングスの不協和音的な絡み合み方が現代音楽的な雰囲気を醸し出しており、他のアルバムにはない味わい。
コンタリーニ宮殿でのDENONの優秀録音も特筆すべきもの。
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~ここでピアノのソロ演奏ものも・・・~
○フィリップ・アーバーグ(ピアノ)
 (1991年頃録音、ウィンダム・ヒル国内盤)


アルバム「ニュー・シネマ・パラダイス」より。 「メイン・テーマ」「彼女を想って/青春期/青年期」の2曲を収録。ピアノ作品としても充分な存在感を感じさせてくれる演奏。ピアノ・ソロであるがゆえに、主人公トトの、憧れや孤独感といった内面の感情が一層際立ってくる。深夜、物思いにふけたい時にぴったり。静寂さが漂うBGMになりそうだ。フィリップ・アーバーグは、ジョージ・ウィンストンでお馴染みウィンダム・ヒルレーベルのアーティストの一人。
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~日本のオケによる素晴らしい演奏を~その①
○竹本泰蔵指揮 日本フィルハーモニー交響楽団
  (2004年6月録音、めぐろパーシモンホールにて収録、KING国内盤)


アルバム「シンフォニック・フィルム・スペクタキュラー⑤~シンフォニック・ラヴ・シネマ篇」より。
まず、曲が「メイン・テーマ」「愛のテーマ」「初恋」と、サントラの中でも有名な定番の3曲が収録されているのが嬉しい。著作権の為か、オリジナル譜面はここ数年使えないという事で、ここではヘンリー・マンシーニによる編曲版を使っているが、オリジナルのモリコーネ・サウンドの魅力をたっぷり引き出した素晴らしいオケ・スコアとなっている。「愛のテーマ」でのサックスのモリコーネ風味たっぷりな吹きっぷりも含めて、日本フィルのゴージャスなサウンドが極上だ。
ややリバーブがかかり気味だが、ダイナミック・レンジが非常に広く、優秀録音と呼べると思う。
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~日本のオケによる素晴らしい演奏を~その②
○山下一史指揮 札幌交響楽団
 (2002年8月録音、札幌コンサートホールKitaraにて収録、自主制作盤)


「ワールド・ミュージック・スタンダード・セレクション」という世界の有名曲が20曲たっぷり詰まったアルバムからの一曲。編曲を手がけているのは日本の作・編曲家、河野土洋氏によるもの。これがまた「日本のヘンリー・マンシーニ」と言いたくなる程の素晴らしいアレンジ。コンサート・ミストレス、管野まゆみ氏の奏でるヴァイオリン・ソロも美しい。
収録会場が札幌交響楽団のメインホールとなる札幌コンサートホールKitaraだけあって、アコースティックな音場が感じられ、日フィル盤に負けない素晴らしい録音に仕上がっている。
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~最後はやはり本人の演奏で・・・~
○エンニオ・モリコーネ指揮
 サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団
 (1998年11月録音、サンタ・チェチーリアにて収録、SONY国内盤)


アルバム「モリコーネ・プレイズ・モリコーネ」より。モリコーネが70歳の誕生日を記念したコンサートのライヴ録音。アルバム最初に「メイン・テーマ」と「愛のテーマ」が収録されている。本人自身がこの曲をしみじみと懐かしみながら指揮をしているのが伝わってくるような演奏。彼独特?のテンポのゆらせ方はさすがだ。「愛のテーマ」後半部の盛り上がるシーンでアッチェレランドをかけるのもモリコーネならでは。映画を観た者なら誰もがぐっとくるだろう。ライヴ収録という事もあり、録音レベルは今一つだが、モリコーネ70歳の貴重なドキュメントだ。
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