○ショルティ指揮シカゴ交響楽団
(1977年5月録音、メディナ・テンプル、シカゴにて収録、デッカ輸入盤)
まるでホルン協奏曲のような(!)マイスタージンガー。冒頭からホルンパートのサウンドが炸裂!その中核をなしているのはまぎれもなく首席奏者のデイル・グレベンジャーその人だろう。逆にアドルフ・ハーセスを中心とするトランペットセクションのサウンドはそれほど強調されていない事から、ホルンパートがややオンマイク気味なのかもしれない。トランペットセクションを堪能できたベーム盤と同様、演奏面でもベーム盤と好対照をなしている。
冒頭の「マイスタージンガーの動機」からストリングスセクションにも力強さ、迫力がにじみ出ている。
全体に早めのテンポで、中間部の「マイスタージンガーの動機」も一気に駆け抜けるシーンはショルティらしい。聴いていて爽快感のある演奏。
○ユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団
(録音・収録不明、CBSソニー国内盤)
ゴージャスなマイスタージンガー。オーマンディらしく、鳴らす所は鳴らし、歌わせる所は歌わせる、アメリカンな演奏。但しそのサウンドには人によって好き嫌いがありそうで、ブライトなカラーのフィラデルフィア管のトランペットセクションの音色がワーグナーにはやや不向きな感も。
当時のトランペットの首席奏者、ギルバート・ジョンソンも演奏に加わっていると思われるが、時にコルネット?とも思える柔らかな音色がサウンドに重みが欲しいこのような作品には説得力に欠けて聴こえてしまう。
冒頭からヴィブラートをバリバリかけて吹いてしまうあたり、むしろワーグナー作品を楽しんで聴くというよりも、オーマンディ&フィラデルフィア管サウンドとして聴くのが面白いと思える演奏に仕上がっている。
録音はステレオ感がくっきりと出た60年代の録音と思われるが、ややLとRが強調され気味か。
○飯守泰次郎指揮 名古屋フィルハーモニー交響楽団
(1995年10月13日録音、愛知県芸術劇場コンサートホールにてライヴ収録、
自主制作盤)
今回取り上げたディスクの中で最も新しく購入したもの。飯守泰次郎氏が1993年4月から1998年3月まで名古屋フィルの常任指揮者としての活躍していた頃のライヴ音源。
日本人指揮者が日本のオケと共に創り上げた一つの理想的なマイスタージンガーだと思う。
名古屋フィルは1966年に結成されたまだ歴史の浅いオケだが、ワーグナーのツボを実に心得た演奏となっている。冒頭から推進力を持ったテンポの運びで、クライマックスまで一気に聴かせてくれる。良く言えば酔いしれる事ができる演奏だ。1970年からバイロイト音楽祭の音楽助手として参加し、現地でワーグナーを肌で感じてきた飯守氏ならではの白熱した指揮ぶりが伺える。
飯守氏の指揮はまだ生で接した事はないが、以前、日本テレビで放映されていた読売日本交響楽団の演奏を聴いた事がある。その時の演目はマーラーの「巨人」だったが、ここでも劇的で感動的なクライマックスを作り上げていたのが印象的だった。
録音はライブの制約もあってか、やや分離には欠けるものの、サウンドは明瞭でライブの気迫は十分伝わってくる。何より東京以外の地方オケによる自主制作盤という所が嬉しく、いい刺激となりそうだ。このようなライヴ収録ものを是非今後も期待したい。