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有楽町でのハイエンドオーディオショウを駆け足で巡った後、15時から開催されるカール・ライスターのミニ・コンサート&サイン会を見に渋谷のタワーレコードへ。10月末までの日本ツアーの一環でのイベントだが、34年もの長きに渡り在籍した元ベルリン・フィルのクラリネット奏者という肩書きを持つ世界的奏者だけに本番前から早くもフロアは賑わっていた。
そんなライスターの音楽家生活50周年と、今年70歳になる誕生日を記念して、彼と四半世紀以上にわたって信頼関係にあるカメラータ・トウキョウが5枚組BOXセット(+ライスターの肉声と初CD化音源が加わった特典ボーナスCD付き)のリリースを記念してのもの。
1960年代にベルリン・フィルのメンバーとして来日して以来、彼の人柄と親日家ぶりが伺えるイベントなった。

今回のイベントの見所はカメラータの女性社員がインタビュアー・通訳となって約50分近くに渡って盛り上がったライスターのトーク。
彼の豊かな音楽人生をうかがわせるエピソードやレア話を以下に記しておきたい。

【その①】
・カメラータ・トウキョウにとってライスターの初の録音となる群馬交響楽団と
 モーツァルトのクラリネット協奏曲('80年録音)では世界的奏者との共演
 アルバムの完成を喜んだ高崎市が、アルバム発売から実に一年間に渡り、
 駅の構内放送で彼の演奏(当時はLPだった)を流し続けたという。
 (カメラータの担当者も知らなかった!)
【その②】
・ウィーンのスタジオ(カメラータの常用スタジオ、スタジオ・バウムガルテン?)
 の前を通る路面電車の騒音対策の為、10分置きに録音を中断して
 レコーディングを続けたという。
【その③】
・共演でカラヤン以外で印象に残っている指揮者は?という質問に、
 「バーンスタイン」、と答えていた。カメラータの担当者は「ベートーヴェンの
 交響曲第9番」と訳していたが、バーンスタインのベルリン・フィルとの共演
 といえば'79年のマーラーの交響曲第9番では・・・?ドイツ語が解せない
 だけに、判明せず。
【その④】
・現代音楽にも積極的で、作曲家の西村朗氏がライスターの演奏を聴いて
 インスピレーションを受けた新曲を演奏・録音する話等、レコーディングに
 かける情熱も感じられる興味深いものだった。

なお、ミニコンサートは3曲のみで内2曲がマックス・レーガーの「ロマンス」という小品をオープニングとアンコールで演奏。場所が場所だけに、ライスターのふくよかな音色を感じるには今ひとつだったが、彼の吹きっぷりには熟練の気迫が感じられた。
技巧的な曲ではなく、人生の晩秋的な雰囲気が漂うしっとりとした曲だが、自身大のお気に入りという。70歳を迎えた彼の境地と重なるような演奏だった。

終了後、今回の記念BOX5枚組を購入してサイン会の長蛇の列に加わったのは言うまでもない。意外だったのは演奏時もサイン会時も若者が圧倒的に多かった事。ライスター自身、「日本の若者のクラシック人口が増えるのはとても素晴らしい事」と語っており、ある若者は自前のクラリネットの楽器ケースにサインをもらっていた!自分はオーソドックスにBOXセットのカバー(下の画像)にサインをもらう(^^)

ライスター自身、サービス精神を忘れず、特に女性ファンからのツーショットにも気兼ねなく応じていた。サイン会中は、彼の代表録音の中からエピソードにも出てきた群馬交響楽団のモーツァルトの協奏曲の2楽章をBGMにしてほしいとタワレコの担当者にリクエストしていたのもそんなサービス精神のあらわれか。

70歳を迎え、健康に話題が移った際のインタビューで、「音楽する事で若さが保てる」と語っていた彼の言葉が印象的だった。

帰宅後、BOXセットのモーツァルトの協奏曲を聴きながら、巨匠と呼ばれる年代に達し、益々味わい深くなったライスターの記念年を自分なりに祝した。

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