画像

昨年エントリーしたカプースチンのアルバムで、そのスーパー・ヴィルトォーゾぶりに度肝を抜かれたマルク=アンドレ・アムラン(b.1967)の新録音が登場した。『イン・ア・スタイル・オヴ・ジャズ』と題されたそのアルバム('07年7月録音、ヘンリー・ウッド・ホール、ロンドンにて収録、ハイペリオン輸入盤)は、カプースチンを含む計4人の作曲家のジャズ・スタイル作品集となっている。
今回も超絶技巧ぶりを思う存分披露してくれるが、そのいずれもがアムランの手中に収まった演奏となっている。いずれもジャズに強い影響を受けた作曲家の作品とだけあって、彼自身も心待ちにしていたレコーディングだったに違いない。

収録曲は以下の通り。

①グルダ:エクササイズ第1番~『プレイ・ピアノ・プレイ』より
②カプースチン:ピアノ・ソナタ第2番 Op.54
③グルダ:エクササイズ第4番~『プレイ・ピアノ・プレイ』より
④ワイセンベルク:ジャズ・ソナタ
⑤グルダ:エクササイズ第5番~『プレイ・ピアノ・プレイ』より
⑥グルダ:前奏曲とフーガ
⑦ワイセンベルク:シャルル・トレネによって歌われた6つの歌曲のアレンジ
⑧アンタイル:ジャズ・ソナタ


1曲目のグルダ(1930-2000)の「エクササイズ第1番」から早くもジャズの世界に誘われる。グルダは以前エントリーした「アリア」のような美しいオリジナル曲もあるが、晩年はジャズに傾倒していた。アルバムではこの第1番に4番、5番を加えた3曲が収録されており、アムランにとっては練習曲として、日々指慣らしで弾いていた(?)曲だったのかもしれない。今回はその3曲をアルバムの中でバランスよく散りばめ、カプースチン、ワイセンベルク作品のつなぎ的な位置づけとして活用しているプログラミングもさすがだ。彼自身、グルダへのオマージュ的な意味合いがあるのかもしれない。

②のカプースチン(b.1937)の「ピアノ・ソナタ第2番」はやはり今回のアルバムでも注目曲。前回のアルバム同様、ジャズの香りが漂うと共に、1楽章から既に超絶技巧の世界。そして何より、カプースチン作品に共通して感じられる“陶酔感”のような美しさが、この作品にも備わっている。一聴して、この部分がこの曲のサビなんだ、と思わせるような所がある。初めて聴いてもジャズのノリと共に親しみやすさがあるのがカプースチン作品の特徴であり、個性なのかもしれない。アムランのカプースチンとの親交ぶりを窺わせる写真があるのも興味深い(画像下:左/カプースチン、右/アムラン)。

今回、新鮮な驚きだったのは④と⑦のワイセンベルク(b.1929)の2作品。ワイセンベルクといえば、'70年代にカラヤンとラフマニノフの協奏曲を録音したピアニストという位の知識しかなく、クラシックオンリーなピアニストだと思っていたが、こんなジャズ・スタイルの曲を作る作曲家でもあったとは!④の「ジャズ・ソナタ」では終楽章の展開に、ワイセンベルクならではのジャズ・スタイルの面白さを感じる(いい意味で、はちゃめちゃと思わせる心地よさ!)し、フランスシャンソン界の大御所で詩人でもあった、シャルル・トレネの歌曲を編曲した⑦の「シャルル・トレネによって歌われた6つの歌曲のアレンジ」も実に興味深い。2曲目など、美しい旋律に満ちた曲も。テクニックだけでなく、こういう知られざる曲を持ってくるアムランの選曲眼もさすがだ。

なお、⑧のアンタイル(1900-1959)の「ジャズ・ソナタ」は'05年の日本公演のアンコールでも演奏され絶賛された曲だというが、この曲が最終の収録曲となっているのも、まさにアルバム上のアンコールとしての位置付けなのだろう。

ちなみに、アムランもジャン=ギアン・ケラスと同様、モントリオールの出身。現代音楽にも強い二人が共にモントリオール出身というのも面白い。
次はどんな曲で、新鮮な驚きを与えてくれるのだろうか。これからもアムランの活動には目が離せない(^^)


画像