バッハの「ブランデンブルグ協奏曲第3番」。ヴァイオリンを中心にストリングスに高度な技巧を要求されるこの曲は、ブラス・アンサンブルの世界でも愛されている。「ゴールドベルク変奏曲」に引き続き、この第3番もブラス・アンサンブルによるトランスクリプションによって初めて出会った曲だった。もともと難易度の高い名曲を、更に難易度の増すブラス・アンサンブル版によって果敢に取り組んだ団体が3つある。出会ったディスクの順に自分の所感をコメントしてみたい。(画像:左上より時計周りに対応)
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~ブラス・アンサンブル版の元祖、それは・・・~
○フィリップ・ジョーンズ・ブラスアンサンブル(PJBE)
('86年録音、聖バーナバス教会にて収録、DECCA国内盤)
'51~'86年に渡って活動を行ってきたPJBEの解散に伴い、DECCAへのラストアルバムの最終曲として収められている貴重な録音。
ラストにこの難曲を持ってきたのは、リーダーのフィリップ・ジョーンズとしても相当な気の入れ込みだったと思う。トロンボーンのクリストファー・モワットによるトランスクリプションをフィリップ・ジョーンズ自身、「やっと本当に大作曲家のバッハに応えることができるようになってきた」と成功を喜んでいる。
各奏者間の滑らかな音のつなぎ、各楽器間の無理のない音量バランス感とブレンドされた音の響き、原曲の本質を見抜いた上でのブラス・アンサンブルとしての高い音楽性。
長年に渡って活動してきたPJBEの集大成ともいえる出来栄えだと思う。
彼らのトランスクリプションは、ブラス・アンサンブルの世界に革命をもたらし、新たな展望を開いたと言っても過言ではない。
録音はDECCAにしては珍しく?まろやかな音作り。教会での収録という事も作用しているのかもしれない。クオードスピーカーにしてから、各奏者のブレス音も聞き取れるようになってビックリした(^^)
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~名門オケ奏者達によるブラスの響き…~
○ベルリン・フィルハーモニー・ブラス・アンサンブル
('97年録音、ベルリン・フィルハーモニーにて収録、
ドイツ・グラモフォン輸入盤)
その名の通り、名門ベルリン・フィルの金管奏者による意欲作。'74年以来、帝王カラヤン時代を支えたコンラディン・グロート('98年に引退)も出演しており、貴重な録音だ。バッハの曲は地元の俺達で・・・と、その心意気はさすがだが、アンサンブルの精度は今ひとつ。PJBEと同様のクリストファー・モワット版を使用しているが、特に音色の統一感が微妙で、自分にはしっくりとこない。日頃、オーケストラで自分達の音を"主張する"プレイヤーにとって、協調性や音色のブレンド感が重視されるアンサンブルには別の次元の難しさがあるように思う。その為かテンポもPJBEより遅く、鈍重感が残る。やはり彼らはオケのプレーヤーなのだ。
ちなみにもしロイヤル・コンセルトへボウの奏者達が演奏したらどうなっていただろう・・・?そんな期待が残る。
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~そして、ついに一つの決定盤が登場!~
○ジャーマン・ブラス
('04年録音、KREUZ PLUS MUSIK輸入盤)
やはり時代は変わっていくものだ。PJBEによって築かれたブラス・アンサンブルの伝統は、先日の来日公演でも名演を聴かせてくれたジャーマン・ブラスによって今まさに開花しようとしているように見える。
編曲にはエンリケ・クレスポ/マティアス・へフスの名前があるが、クリストファー・モワット版がベースになっているのは間違いない。PJBE並みのアンサンブル精度に加え、各奏者のテクニックの冴えた演奏が聴ける。特に全般的にピッコロ・トランペットを使用する事の多いマティアス・ヘフスのテクニックときたら・・・!ブラス・アンサンブルの最高音域を担当する絶妙なピッコロ・トランペットのテクニックと音色が、ジャーマン・ブラスのカラーに品位と華やさを与えている。
スター・プレーヤーの存在はやはり大きい。オール・バッハ・プログラムである所にも、彼らのバッハへの誇りとこだわりを感じる。ブラス・アンサンブルはここまで進化した・・・そう思えるアルバムだと思う。