実に心待ちにしていたアルバムが登場した。なにわ《オーケストラル》ウィンズの最新ライヴ。自分自身も演奏に接したスパークの「ジュビリー序曲」、バーンズの「アパラチアン序曲」や、現役時代に聴き馴染んだリードの「小組曲」、カーターの「ラプソディック・エピソード」、スミスの「華麗なる舞曲」、「ルイ・ブルジョアの賛歌による変奏曲」等の懐かしい曲が並んでおり、そのラインナップの魅力で即購入をしてしまった次第。収録曲は以下の通り。
○ジュビリー序曲(フィリップ・スパーク)
○イシターの凱旋(ジョセフ・オリヴァドーティ)
○狂詩曲「ノヴェナ」(ジェームズ・スウェアリンジェン)
○組曲「百年祭」(モリセイ)
○小組曲(アルフレッド・リード)
○華麗なる舞曲(クロード・T・スミス)
○西部の人々(ハロルド・L.ワルターズ)
○ラプソディック・エピソード(チャールズ・カーター)
○アパラチアン序曲(ジェームズ・バーンズ)
○百年祭(NOW2012用 改訂版)(福島弘和)
○ルイ・ブルジョアの讃歌による変奏曲(クロード・T・スミス)
≪アンコール≫
○シン・レッド・ライン(アルフォード)
≪ボーナストラック:2012年吹奏楽コンクール全課題曲≫
○課題曲I:さくらのうた(福田洋介)
○課題曲IV:行進曲「希望の空」(和田 信)
○課題曲III:吹奏楽のための綺想曲「じゅげむ」(足立 正)
○課題曲II:行進曲「よろこびへ歩きだせ」(土井康司)
○課題曲V:香り立つ刹那(長生 淳)
客演指揮:丸谷明夫、中川重則他
演奏:なにわ《オーケストラル》ウィンズ
(2012年5月3・4日録音、ザ・シンフォニーホールにて収録、ブレーン国内盤)
今回はバンド創設10周年を記念したアニバーサリー的なコンセプトが反映されたプログラム。個人的に嬉しいのは、各々の作曲家の2番手の人気曲にもスポットがしっかり当たっている点。例えば、スミスなら「ルイ・ブルジョアの賛歌による変奏曲」、バーンズなら「アパラチアン序曲」がそれらに該当するだろう。今回じっくり聴き入ってみて、改めてこれらの曲が名曲である事を実感させてくれた。
なにわ《オーケストラル》ウィンズの持ち味は、現役のオケプレイヤー中心の編成ならではのシンフォニックな響きと、アマチュア学生バンドのカリスマ指導者とのユニークな共演。こういった企画意図がなければ中々出会う機会はまずなかっただろう。そんな彼らが期間限定の活動を行う事で、心地良い緊張感と化学反応を引き起こし、吹奏楽レパートリーの醍醐味を教えてくれる。
サウンド面で特長的なのは、特にブラス・セクション。トランペット、ホルン、トロンボーンの重厚感のある響きは、日々、オケの中でブルックナーやマーラー等の作品を演奏している彼ら特有のものといえるだろう。例えば、一曲目に収録されている「ジュビリー序曲」では、冒頭のファンファーレがまるでヤナーチェクの「シンフォニエッタ」のような有機的な響きを作り出しているように聴こえる。
逆に、常設のウィンド・バンドとの比較では、機動力や色彩感に劣るのでは?と考える向きもあろうが、それは心配無用だった。例えばスミスの「華麗なる舞曲」では、鋭いキレで、機動力の高さを証明してくれた。管楽パートに限定されるものの、この難曲に比類するオケ曲が浮かばない位、なにわ《オーケストラル》ウィンズのメンバーも普段にはないスリルを味わったに違いない。個人的には同じ関西圏のバンドという事で、大阪市音楽団の名演との比較も興味のわくところ。
一方、「ルイ・ブルジョアの賛歌による変奏曲」では、中低音楽器が充実した響きを奏でる冒頭部分の賛歌や、トロンボーンによって賛歌の旋律が鮮やかに浮かび上がる後半部分の変奏等、これまで東京佼成ウィンド・オーケストラ盤に聴き馴染んできた耳には新鮮で、新たな発見も多かった。スミスが描き出すパレットの豊かさは、クラシックの作曲家に例えるなら、さながらR.シュトラウスといった所か。改めてスミス作品の素晴らしさを感じるきっかけとなった。
かたや、「バラの謝肉祭」で取り上げたオリヴァドーティの作品等、自分も含めた新旧ブラバン世代も対象にしたであろう選曲も含まれており、心ニクい。なお、5曲収録された邦人作曲家によるコンクール課題曲の中に、聴き応えのある曲があった事も特筆しておきたい。
毎年ワクワクさせてくれる選曲と演奏のなにわ《オーケストラル》ウィンズの活動に、今後も目が(耳が)離せそうにない。