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前回のオーケストラ編に引き続き、今回もラフマニノフのヴォカリーズを。作曲当時から100年近くが経とうとしているものの、この曲の持つ親しみやすく、美しい旋律によって、様々な編曲版が登場している。それだけ、現代の人々にも心を打つ大衆的な普遍性を持ち合わせているという事だろう。自分が現在所有するだけでも4種類のアレンジによるヴォカリーズが・・・室内楽版、チェロ四十重奏(←四重奏ではなく、四十重奏!)、サックス四重奏、ピアノ・トリオ・・・深まりゆく秋に、それぞれの魅力を味わってみたい。(ジャケット画像:左上より時計まわり)

【室内楽版】
○アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ・チェンバー・アンサンブル
 ('92年9月録音、スネープ・モールティングス・コンサート・ホール、サフォークにて収録、CHANDOS輸入盤)


以前「月の光」でエントリーしたアカデミー室内管弦楽団の首席メンバー9人による演奏。この室内楽版では最初にヴァイオリンのソロ、次にチェロのソロによって主題が奏でられる。少人数である分、主旋のソロがくっきりと浮かび上がり、より透明度が増した演奏となっている。バックのサポートも美しい。一聴してさらっとした演奏に聴こえるが、首席奏者によるアンサンブルならではの安心感がある。こういう小品にも絶妙な巧さを発揮するのは母体のアカデミー室内管と同様の強みでもあるのだろう。

【チェロ四十重奏板】
○ジェフリー・サイモン指揮 ロンドン4大オケのチェロ奏者40名
 ('93年録音、All Hallows Gospel Oak、Londonにて収録、CALA輸入盤)


アレンジの真打ち登場!オリジナルでも主旋律を奏でる上で大きな役割を果たしているチェロによる編曲で、しかも40人!のチェリストによる演奏という壮大なアレンジ。まさにチェロ・オーケストラと呼ぶにふさわしい編成!メンバーはロンドンの5大オケの中からロンドン響を除く、4つのオケ(ロンドン・フィル、フィルハーモニア管、ロイヤル・フィル、BBC響)のチェロ・セクションから集まった各々10名の奏者達。このチェロ・オーケストラを束ねるのは、指揮者ジェフリー・サイモン。以前エントリーした、48名のヴァイオリニストによる アルバム「THE LONDON VIOLIN SOUND」の続編的な位置づけとなっている。 (下:レコーディング風景の画像)
各々、所属オケは違えど、歌心を知り尽くしている奏者達だけに、もとももと一つのオケのチェロ・セクションと聴き間違えるかという位、絶妙なアンサンブルを聴かせてくれる。チェロは人間の声帯の音域に最も近い楽器だけに、合唱的な響きの醍醐味も味あわせてくれる。編曲はRichard Balcombeによるもので、このレコーディングの為に編曲されたものだという。ヴォカリーズだけに、ラフマニノフ自身が聴いたらきっと喜んだことだろう。

【サックス四重奏版】
○アルディ・サクソフォーン・カルテット
 ('02年8録音、横須賀ベイサイドポケットにて収録、マイスター・ミュージック国内盤)


サックス四重奏版ヴォカリーズという珍しい録音。とはいうものの、むしろサックス曲?と思わせるほど、初めて聴いても何の違和感もなく聴けるアレンジに仕上がっている。 ここでの演奏は原曲と調性は異なるが、東京芸大の同期4名によって結成されたカルテットだけに、メンバー同士の呼吸もぴったり。4種のサックス(ソプラノ・アルト・テナー・バリトン)の音色のブレンド感も見事。サックスという楽器の魅力を再発見できる演奏。

【ピアノ・トリオ版】
○アコースティック・カフェ
 (forlife国内盤)


ピアノにヴァイオリン、チェロが加わったピアノ・トリオ編成でのアレンジ。演奏は昨年の東京国際フォーラムでのデビュー20周年記念コンサートの記憶が新しい中村由利子が参加した「アコースティック・カフェ」によるもの。こちらも原曲とは異なった調性にアレンジされている。上記の室内楽版以上にヴァイオリンとチェロのソロが前面に出ている為、やや濃厚な味付けになっているものの、ヴォカリーズがイージー・リスニングとしても聴ける好例といえるだろう。


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