週末の午後、コンサートへ。目的はここ数年、「フェスタ・サマー・ミューザ」として定着しているミューザ川崎での公演。休憩なしのプログラム構成という事もあり、チケット料金が安い(今回も\2,000)という所も売りだが、今回の聴き所は何といってもN響が前半のプログラムで吹奏楽を演奏する点。N響は先日、NHKホールでの公演を聴いたばかりだが、この日の会場は、そんな話題性もあってか、楽器を抱えた吹奏楽少年・少女の姿も多かったように見えた。
当日のプログラムは以下の通り。
○ホルスト:吹奏楽のための第2組曲 ヘ長調 作品28-2
○伊藤康英:吹奏楽のための交響詩「ぐるりよざ」~「祭り」
○ベルリオーズ:序曲「ローマの謝肉祭」作品9
○レスピーギ:交響詩「ローマの祭り」
現田茂夫指揮 NHK交響楽団
吹奏楽の和洋のオリジナルが2曲、また後半3曲は日本、フランス、イタリアの作曲家がそれぞれ「祭り」をテーマに取り上げた実に興味深いプログラム。
「吹奏楽のための第2組曲」は自分自身、高校時代に「第1組曲」を文化祭で演奏しただけに、ずっと馴染んできた懐かしの曲。ストリングスを除き、木管を一部増強した特別編成でN響メンバーがステージ上に集う。さすが、NHK、司会進行は女子アナ(黒崎めぐみアナウンサー)が担当。前半の二曲を「“NHK吹奏楽”の皆さん」と紹介していたのがユニークだった。
今聴いても古さを全く感じさせず新鮮に響いてくる吹奏楽の古典的名曲。N響のメンバーの中にも、吹奏楽経験者は何人もいたに違いなく、彼らにとっても新鮮だったに違いない。実際、吹奏楽経験者の一人であるチューバの池田幸弘氏は「ブラスの力」と題された「モーストリー・クラシック」最新号の特集で、吹奏楽で過ごした自分の青春時代の経験談をインタビューに寄せている。この日の池田氏の吹きっぷりも実に楽しそうだった。
予想以上に楽しめたのは交響詩「ぐるりよざ」。打楽器の活躍が目立つこの曲は、視覚的にも楽しめる。改めて日本の吹奏楽作品の良さを再発見したという感じだった。
「ローマの謝肉祭」でようやくストリングスが合流すると、オーケストラ本来の響きに戻り、サウンドにも拡がり感が出てきた。メインの「ローマの祭り」は、やはり冒頭からの豪快さがこの曲の売り。3人のトランペット奏者による別動隊のバンダやパイプオルガン、マンドリン奏者も登場し、実にスペクタクル。全体的にトランペットの活躍が目立つ曲でもあり、首席奏者の存在感がいつもに増すが、この日の首席の津堅直弘氏のソロはやや苦戦気味に聴こえた。
指揮の現田氏は、聴かせ所のツボを外さない華麗な指揮を展開。今回のプログラムのような曲には、特に手腕を発揮しているようにみえた。ミューザ川崎の音響は、大音響の渦となっても混濁する事なく、最新ホールならではの醍醐味が味わえる。座席は前回のサントリーホールと同様、上手の2階席付近から眺める位置だった事もあり、演奏者の緊張感がよりリアルに伝わってきて楽しめた。
また、今回の公演ではメインのコンサート以外にも、2つの楽しみが待っていた。
一つは、コンサート開始約1時間前に開かれたプレ・コンサートで、N響の2組の室内アンサンブルが登場。一組目は、チェロ(西山健一氏)&コントラバス(西山真二氏)によるデュオで、ロッシーニの「チェロとコントラバスのための二重奏曲二短調より第1、3楽章」を演奏。息遣いの良さは、さすが、双子の奏者ならではだった。
二組目は首席クラリネット奏者の横川晴児氏を始めとする12名のクラリネットアンサンブルで、ドビュッシーの「小組曲」を演奏。同属楽器による響きがまるで合唱のようで美しく、クラリネットの響きを堪能できた。
2つ目の楽しみは、終演後、ホール隣の展示室で、世界的な音楽写真家の木之下晃氏のトーク付き写真展(画像下)をのぞけた事。ミューザ川崎の5周年を記念し、ミューザ川崎でこれまでに世界の名指揮者達が振った公演を、木之下氏が撮りおろした写真展で、その中には4月に聴いたシュターツ・カペレ・ドレスデンを指揮したファビオ・ルイージの写真も。
トークでは、木之下氏が写真を撮影した当時のエピソードが実に興味深く、雑誌やネットからの情報では窺い知れない彼らのこだわりや、意外な一面が垣間見えたのは面白かった。トークの最後ではサイン会も。ちょうど欲しい本があったので、この機会に木之下氏からサインを頂戴する。実に貴重な一時となった。