地震から半月が過ぎたが、今もって震災の影響が残る毎日。首都圏に住んでいても、不安にさらされる日が続く。計画停電、放射能、水の汚染、水のペットボトル不足・・・これらは全て、地震そのものの影響というよりは被災した福島の原子力発電所の影響といえるだろう。改めて原発を抱える事の問題点を思い知らされると共に、節電というものの大切さを再認識させられた。デパートや、電車の駅構内等、以前に比べて照明を落とす動きが出ているが、ある意味、この暗さで充分と思う。日本は照明が多すぎる国なのだ。ヨーロッパは、照明はぐっと少なく、夜の通りも暗かった。今回を機に、日本も節電の意識をもっと持って電気を使用する姿勢が大切と感じた。亡くなった多くの方々のご冥福と、一日も早い復興を祈りながら、前回のドイツ・オーケストラのオケ編に引き続き、今回は、3つの英国オケによるモツレクをエントリーしてみたい。(ジャケット画像:左上より右回り)
○カルロ・マリア・ジュリーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団
リン・ドースン(ソプラノ)
ヤルト・ヴァン・ネス(コントラルト)
キース・ルイス(テノール)
サイモン・エステス(バス)
フィルハーモニア合唱団
(1989年4月録音、ウォルサムストウ・アセンブリー・ホール、ロンドンにて収録、ソニー国内盤)
イタリア出身の巨匠、ジュリーニ(1914-2005)のソニー移籍第一弾でもあるアルバム。以前エントリーしたフィルハーモニア管との「リンツ」のライヴ盤で聴けたような軽やかさはここにはなく、他の盤に比べ、全体的にどっしりと腰を落としたテンポにまず耳がいく。しかしながらその重量感には無駄はない。そのテンポから築き上げられる音楽は、まるで土台から一つ一つ石を積み上げていくヨーロッパの建造物のようで、全体の設計図から生み出される構築美にも感銘を受ける。当時75歳のジュリーニだからこそ、なせる技でもあったのだろう。独唱陣も旨く、特にバスのサイモン・エステスの迫力あるヴォイスは、今回取り上げた全アルバムの中でも群を抜いている。
○モーシェ・アツモン指揮 BBCウェールズ交響楽団
ジェニファー・スミス(ソプラノ)
ヘレン・ワッツ(メゾ・ソプラノ)
イアン・パートリッジ(テノール)
スタンフォード・ディーン(バス)
BBCウェールズ合唱協会
(1978年9月8日録音、セント・デイヴィッド・メトロポリタン大聖堂、カーディフにて収録、BBC国内盤)
1978年から1983年まで東京都交響楽団の音楽顧問と首席指揮者を務め、日本でもお馴染みのハンガリー出身の指揮者、モーシェ・アツモン(b.1931)による貴重なライヴ録音。合唱にややアマチュアライクさを感じる時もあり、例えば「ディエス・イレ(怒りの日)」では男声陣の力不足が否めないシーンもあるが、全体的には合唱とオケのバランスがよく、おまけにロケーションが大聖堂という残響の豊かさと相まって、理想的なライヴ環境といえるだろう。偶然にも、自分のバースデーの録音日だった。BBCウェールズ響は昨秋、「ベルシャザールの饗宴」で名演を聴かせてくれた尾高忠明氏(b.1947)が桂冠指揮者を務める楽団としても知られている。
○フランツ・ヴェルザー=メスト指揮 ロンドン・フィルハーモニ管弦楽団
フェリシティ・ロット(ソプラノ)
デッラ・ジョーンズ(メゾ・ソプラノ)
キース・ルイス(テノール)
ウィラード・ホワイト(バス)
ロンドン・フィルハーモニー合唱団
(1989年4月録音、St Augustine's 教会にて収録、LPO海外盤)
昨年、ウィーン国立歌劇場音楽総監督に就任し、今や押しも押されぬ人気指揮者となったメスト(b.1960)が、1990年から1995年まで首席指揮者を務めたロンドン・フィルと繰り広げた貴重なライヴ録音。ロンドン・フィルの自主レーベルの音源だが、収録の都合上か、「イントロイトゥス(入祭唱)」一曲だけなのが残念。EMIによるセッション盤には全曲収録されているので、そちらも聴いてみたい。メストはジュリーニやベームらの巨匠達のような重厚なモツレクとはまた違い、ロンドン・フィルから室内オケのような室内楽的な響きを引き出す事に成功している。純粋で透明感の高いモツレク。