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猛暑と熱帯夜が続く今日この頃、クラシックで氷点下の気分を味わえるうってつけのコンサートに行ってきた。R.シュトラウスの「アルプス交響曲」!これぞまさしく、猛暑に相応しい音楽。
実は2日前に、たまたまHMVのHPを眺めていたら、ミューザ川崎シンフォニーホールで「フェスタサマーミューザ」なるオケの祭典が25日からスタートするのを知り、その2日目のプログラムが「アルプス交響曲」だと知ってこれだ!と思い立ったのがきっかけ。いつもの残業仕事を今日は早々に切り上げ(^^)、ホールへ。休憩のない60分程度のコンサートという手軽さに加え、S席で3,000円という値段で日本の一流オケの音が気軽に楽しめるのは嬉しい。

今宵の魅力・・・
◆話題の指揮者、下野竜也氏が登場!

'06年に読売日本交響楽団の正指揮者に就任。小沢征爾氏と同様、桐朋→ブザンソン国際指揮者コンクール優勝という経歴、既にCDでもブルックナーの交響曲をリリースしており、近頃気になっている指揮者の一人だった。音楽にうねりを与え、響きを構築していく卓越した棒さばきは、'69年生まれという若手指揮者に属する世代という感を与えない。
開演40分前に到着したが、ホール内では下野竜也氏がなんと登山家に扮し、プレトーク中!会場内にR.シュトラウスの画像やアルプスの風景をスクリーン投影し、「アルプス交響曲」の魅力を指揮者自らが語るという、親近感を覚える光景を垣間見る事ができた。

◆オーディオマニアもうなる一大スペクタクルなフルオーケストラサウンド!

ぱっと見た所、100名近くの奏者が関わっている。この曲がいかに大編成を求めているか・・・ホルン奏者が9人(うち4名は途中でテナーホルンに持ち替え)、途中、会場裏で鳴り響くホルンの別動部隊、普段は登場回数が少ないハープとチューバは各2名、打楽器は2セットのティンパニ。珍しい楽器としては「雷雨と嵐」で大活躍の効果音用ウィンドマシーンや「日の出」、「日没」で木管低音部の重要な役割を果たすコントラファゴットが登場し、パイプオルガンも度々登場・・・。これほどオケプレーヤー総動員のサウンドを堪能できる曲は、あとマーラーの交響曲位しかない。

大人数のホルンのサウンドはまさに山にこだまするアルペンホルンそのもの。氷点下のアルプス山頂にいるような気分にさせてくれる「頂上にて」の響きはこの曲の最大の聴き所だ。
もっともウルトラCを要求されるのはトランペットかもしれない。まるで打ち上げ花火のような驚異的なハイトーンが連発。これを首席奏者の長谷川潤氏が見事に吹き切っていた。演奏後、下野氏がプレーヤーを紹介している中で自分自身も含め、長谷川氏への聴衆の拍手の量が一際大きかったのも納得。

それにしても壮大な曲、楽器の事も相当熟知していないとこれだけの編成の作曲はできないだろう。アルプス山脈の情景をオーケストラサウンドで見事に描ききってみせたR.シュトラウスの作曲家としての力量にまさに脱帽してしまう。壮大な中にもR.シュトラウスならではの美しい旋律が活きているのが印象的だ。

◆意外や意外、「アルプス交響曲」は知名度が低い???

この日一番の驚きは会場の入り。おそらく6割にも満たなかったのではないか。自分なりに要因を考えてみると、この曲の知名度が意外と低いのではないか、という結論に辿りついた。確かにR,シュトラウス作品では、「ツァラトゥストラはかく語りき」や「英雄の生涯」「ドン・ファン」の方が知名度や演奏機会が多い事からしてもいえるかもしれない。この季節に絶好の曲を用意してくれた読売日本交響楽団の選曲の妙にも関わらず、実にもったいなく思った。
しかし、その事を自分以外の聴衆も感じていたのだろう。今日は惜しみ無い拍手を送る良質の客が多かったような気がする。目の前の老夫婦がしきりに拍手していたのが微笑ましくもあり、印象的な光景だった(^^

◆感激、コンマスには元ロンドン・フィルの名コンマス、デヴィッド・ノーラン!

あのテンシュテット&ロンドン・フィルの黄金期のコンマスを務めているデヴィッド・ノーランが今宵はコンマス席に!先日テンシュテット&ロンドン・フィルの日本公演のDVDを見ていただけに、生ノーランを見れて感動!しかもこのアルプス交響曲の中でもわずかだが、ソロシーンが聴けた。'99年から読響のソロ・コンマスに就任しており、読響との信頼関係も深いようだ。


以上、自分にとってみれば、CD1枚分の料金で生のコンサートを聴ける事が有難いし、忙しいサラリーマンでも会社帰りの当日券購入で気軽に聴けたのが嬉しかった。
コンセプトはまさに日本版「熱狂の日」だろう。折りしも「のだめ」ブームのあおりもあり、この祭典が多くの人々に生のクラシックを聴くきっかけになれば、クラシックを愛する一人としてこれほど嬉しい事はない。ミューザ川崎の企画力にも感謝したい。