これからワルターが最晩年にコロンビア交響楽団と残した数々の名録音の中から、僕が1990年2月までに買い求めたワルターのCD及びカセットの録音について、ワルターのすばらしさを述べてみようと思う。まずは、僕がこれまで買ったレコードを表にまとめてみよう。(ただしニューヨーク・フィルの演奏もある)
■ブラームス:交響曲第1番・・・① 悲劇的序曲
交響曲第4番・・・②
■ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」・・・③
:交響曲第6番「田園」・・・④
:交響曲第8番
:交響曲第9番「合唱」・・・⑤
■シューベルト:交響曲第5番・・・⑥
:交響曲第8番「未完成」・・・⑥
■モーツァルト:交響曲第40番・・・⑦
:交響曲第35番「ハフナー」・・・⑧
:交響曲第39番・・・⑧
:管弦楽曲集(アイネ・クライネ・ナハトムジークなど6曲)・・・⑨
■ブルックナー:交響曲第4番「ロマンティック」・・・⑩
■マーラー:交響曲第1番「巨人」・・・⑪
CBSソニーより発売 平成2年2月現在・録音はすべて1958年~1961年のもの。
ワルター・ファンの人達と比べると、まだまだすくない方だが、まだこれから僕は集めていくつもりだ。では本題にはいりたいと思う。
①もうこれは第一部でも述べた通り、僕を初めて感動させてくれた思い出の1枚。何もいうことはなかろう。
②もう1度ブラームスの感動を求めて聴いたのがこの曲。僕の期待を裏切らない、ワルター屈指の名演。弦の美しさが聴く者の心をとらえる。
特に第1楽章の出だしの部分は悲愴がただよっていて絶品。とても重量感がある。
③僕が最近買い求めた1枚。ここにはブラームスのような悲愴感はなく、意志的な強靭さがみなぎってくる。明朗快活な演奏。
④これこそが本当の「田園」だ、と思える1枚。ワルター特有の愛情がただよった田園はこのレコード以外には聞けない。第1楽章からテンポをゆったりととった、くつろげる名演だ。
⑤ワルターを聴きはじめて2年目の年末に買った1枚。少し聴くにはワルターファンにとっておそすぎる感がするが。さて、演奏、第3楽章まではコロンビア響の演奏。特に第3楽章の神秘的な美しさはただものではない。まさにマーラーの第5番のアダージェットを思わせる。第4楽章はニューヨーク・フィルの演奏をかわるが、ここからはさらに感動が加わる。特に、あの有名な「歓喜の歌」は聴く者を陶酔させる。僕が今まで「第9」を聴いてきて一番感動したのがこの演奏である。クラシックを初めて聴く人も是非聴いてほしい。
⑥第5番は、すっきりとさわやかな演奏。実は「未完成」が目的で買ったのだが、付録として入っていたこの曲の方が好きになってしまった。しかし「未完成」も昔からの名盤とされてきただけに、心あたたまる美しい演奏である。
⑦「モーツァルトとマーラーの指揮者、ブルーノ・ワルター」とレコード愛好家がそう言っているように、ワルターのモーツァルトはもう絶品である。もうたとえようもなく美しい。とにかく、これは一度聴いてみたらわかることだが、モーツァルトの演奏としての条件を十分みたしており、調和がとてもとれている。低音が響き、安定感もある。この演奏は1度聴いてもらいたいものだ。
⑧モーツァルトの40番に感動して以来、ワルターのモーツァルトのとりこになったが、この2曲もその感動を継続させてくれた。ワルターのモーツァルトに対する音楽構成は前回と同じで、しかしさらに格調高いものがあった。高品優美な雰囲気とでもいおうか、メロディーの一コマ一コマにワルターならではの愛情が漂っている。モーツァルトの音楽が軽くならず、かつ重くならず、あくまで室内楽的な中で交響曲を演奏している。39番のメヌエットも軽妙で美しい。
⑨第40番のレコードに、付録として入っていた有名なモーツァルトの小品集。さすがにモーツァルト指揮者ワルターだけあって、演奏にも手慣れた感がある。すべてがすべて、美しい演奏。
⑩実はCDとして僕が始めに買ったのがこの曲であった。ワルターならほかにもっと名演があるのに、というところだがなぜだかよく分からない。しかしその頃の僕はブルックナーの「ロマンティック」が無性に聴きたかったのだ。もしかしたら、僕がこれまで聴いてきたワルターの柔らかな演奏からはなれて、もっとゴツゴツとした響きある曲を求めていたのかもしれない。演奏はさすがにウィーン・フィルやベルリン・フィルのようにはいかなかったが、しかしワルターのことである、手堅いブルックナーの曲をものの見事に柔軟にとんだ新鮮な演奏にしてくれた。
⑪もともとマーラーに見出されて指揮者となったワルター。マーラーとは師弟関係のように親交が厚かっただけに、そして“マーラー指揮者”といわれただけに、マーラーの演奏はよく理解されている。さらにマーラーの根本思想を基盤としてワルターがそこに深みを加えている。神秘的な1楽章、明るい2楽章、民族的雰囲気のただよう3楽章、そして嵐のように激動する4楽章。どれをとってもワルター的なあたたかい演奏だ。
いずれもワルターの代表的な名盤だけにそれを批評する僕も少し緊張気味でさえある。ワルターのすばらしさを分かっていただけたであろうか。
なお、録音のことについてであるが、これらの録音は1960年代初期であるのにもかかわらず、たいへんうまくとれている。マックルーアのおかげだろうか。それともCDのデジタル・リマスターのおかげだろうか。
またワルターの名盤がそろい次第、あれこれと述べてみたいと思う。~第三部終わり~