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ウィン・モリスは日本ではあまり馴染みのない指揮者かもしれない。以前、未完となったベートーヴェンの第10交響曲をレコーディングした指揮者、といえば聞き覚えのある人も出てくるかも知れない。そんなモリスの経歴を見て驚いた。モリスは1929年生まれのイギリス・ウェールズ州出身。英表記のライナー・ノーツによれば彼はイギリス人で唯一タングルウッドでクーセヴィツキー賞を受賞、イーゴル・マルケヴィッチやジョージ・セルに師事していたという。

60~70年代にかけて完成させたマーラーの交響曲全集がモリスの代表作というが、自分は残念ながら聴いていない。ただ、週末にたまたまCDを聴いていていいなと思った演奏が、モリスがロンドン交響楽団を指揮した田園だった('88年2月9・10日録音、ウォルサムストウ・タウン・ホールにて収録、IMPレーベル)。よく考えたらデジタル録音時代になってからのロンドン交響楽団によるベートーヴェン演奏はあまり耳にした事がなく、最近自主レーベルのLSOレーベルでベルナルト・ハイティンクとのライブ全集が存在している位だろうか。その意味でも貴重だ。

幾分早めのテンポで1楽章がスタート。予想通り、ロンドン交響楽団の奏でるストリングスセクションが美音を奏でる。
モリスの個性が出ていると感じるのは嵐の4楽章。金管を強奏させ、嵐の前の静けさとのダイナミクスを描き分ける事で、後に続く5楽章の平和な静けさも引き立ってくるところがさすがだ。

時代考証を踏まえた上でのモリスの意図的な指示なのかは分からないが、鋭角的に響かせる金管のサウンドの扱い方も個人的に好きだ。それが特に活かされているのがカップリングとして収められている「エグモント」序曲。コーダのトランペットの強奏が曲を締めくくる上でのアクセントにもなっており、聴いていて爽快。(フォルテッシモでしかもハイトーンを強いられるトランペット奏者陣にはツライが・・・) 

曲の構成を熟知しているからこそできるメリハリの良さ。さすが、恩師ジョージ・セルにも通じるモリスの指揮に関心を持つ一枚となった。