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年末、ベートーヴェンの第9と並んでよく演奏されるクラシック曲といえばヘンデルの「メサイア」。交響曲とオラトリオという形式の違いはあるものの、合唱が加わる曲という点で共通している。特に「メサイア」の「ハレルヤ」コーラスは、第9と共に、祝祭的な雰囲気を持ち合わせた人気曲。
近々「メサイア」全曲の実演を聴く機会があるのだが、偶然にも最近2枚のライヴ盤に出会った。いずれもヘンデルの生誕を記念した、歴史的なドキュメント公演であり、教会での収録となっている。既にマリナー&アカデミー室内管のようなセッション録音による名盤も多数存在するが、記念ライヴならでは祝祭的な雰囲気をディスクを通じて味わってみたい。

【1784年のウェストミンスター・アべイでのヘンデル生誕100年祭を再現した記念ライヴ!】
○アンタル・ドラティ指揮 スミソニアン・コンチェルト・グロッソ
 メリーランド大学合唱団
 カテドラル・コーラル・ソサエティ
 (1984年11月録音、ワシントン大聖堂、ワシントンD.Cにてライヴ収録、Intersound輸入盤)


1784年にロンドンのウェストミンスター・アべイ(寺院)でヘンデルの生誕100年を記念した大規模なメサイア・フェスティバルが開催された。このディスクは、その1784年のヘンデル生誕100年祭を再現したメサイアの全曲演奏会で、世界で6番目に大きな大聖堂として有名な米国・メリーランド州のワシントンD.Cに所在するワシントン大聖堂で1984年の11年に行われた貴重なライヴ録音。現地では「メリーランド・ヘンデル・フェスティバル」として毎年開催されている音楽祭のようだ。

何より、指揮がアンタル・ドラティ(1906~1988)である所に惹かれてしまう。ドラティは'70~80年初頭にかけてワシントン・ナショナル交響楽団とデトロイト交響楽団という米国の主要オケのシェフを務め、オーケストラ・ビルダーとしての手腕を発揮していた。今回の200周年記念演奏会にあたっては、既に78歳という高齢ではあったものの、彼のキャリアに加え、ハイドンの「天地創造」の名盤に代表されるように、彼が合唱曲でもみせる巧みな手腕に白羽の矢があたったのかもしれない。

特徴的なのは、オケが古楽器奏法を取り入れていること。スミソニアン・コンチェルト・グロッソという団体は、ワシントンD.Cに所在するスミソニアン博物館管轄のオケをベースに米国各地の古楽器演奏家が集まった総勢約100名の特別編成オケ。おそらく、ここで保管されている古楽器も使用して、200周年記念という歴史的な再現を試みようとしたのだろう。実に意欲的な試みだ。それだけに、ストリングスはもちろん、ティンパニやトランペットなど、古楽器の特性が出たエッジのきいた演奏となっている。特に、ティンパニの硬めの音は、より古楽器らしい新鮮な響きがする。

演奏は実に堂々としたもの。ドラティは、テンポをゆっくりめに取り、約325名の大人数の合唱団をうまくまとめあげている。合唱が大規模なだけに、古楽器オケの鮮やかなサウンドとの対比が印象的。

大聖堂にこだまする大合唱。これだけの大人数で歌えば爽快感が味わえるだろう。

【ヘンデル生誕300周年の記念ライヴ!】
○レイモンド・レッパード指揮 イギリス室内管弦楽団
 ロンドン・フィルハーモニック合唱団
 ウェストミンスター・アべイ聖歌隊
 (1985年2月23日録音、ウェストミンスター・アべイ(寺院)にてライヴ収録、BBC RADIO Classics国内盤)


ヘンデルの生誕300周年を祝って、ヘンデルの誕生日(2月23日)に行われた貴重な記念ライヴ。オケはイギリスの室内オケの名門、イギリス室内管弦楽団で、モダン楽器による現代の演奏スタイルとなっている。何より先程のドラティの記念ライヴ盤の発端となった、ロンドンのウェストミンスター・アベイが会場となっていることに、歴史的な意義がある。
ここでのハレルヤコーラスは、ディスクの最終曲に収録。当夜のコンサートでは、アベイの聖歌隊に、ロンドン・フィルの合唱団が加わっており、聖歌隊による男声の澄み切ったサウンドに、混声ならではの迫力が加わることで、ヘンデルらしい華やかさが加わっている。

レッパード(b.1927)とイギリス室内管弦楽団との演奏は以前もエントリーしたことがあるが、本ディスクでは、合唱だけでなく独唱やパイプ・オルガンとの共演目も収録されており、バロックの大御所として手慣れた指揮を感じさせる。

一箇所、違和感があったのはハレルヤ終演後の拍手。熱狂的な拍手が一斉に沸き起こるかと思いきや、何となく大人しい拍手。あれれ、聴衆が拍手のタイミングを失ったのかな?と考えていたが、何千人もの聴衆を収容できるようなコンサートホールではない教会だけに、大人しく聞こえる・・・と考えた方が正しいだろう。BBC放送による収録だけに、映像があれば観てみたいものだ(^^;