先日、NHKの「クラシック音楽館」で指揮者の尾高忠明さんを取り上げた「N響の50年」という特集を観る。現在N響の正指揮者である尾高さんが、1971年にN響と初共演してから2021年で50年になるという。そんなN響と共演した特別演奏会で取り上げた演目が興味深かったが、その特集の中で印象に残ったシーンがあった。それは彼のキャリアを振り返る中で、1987~1995年に首席指揮者(現在は桂冠指揮者)を務めていたBBCウェールズ・ナショナル管弦楽団(旧称:BBCウェールズ交響楽団)との来日公演の一コマ。エルガーの交響曲第1番を演奏していたシーンだったが、その後、1999年にはエルガー協会より日本人初のエルガー・メダルを受賞という名誉を手にしている。まさに日本の指揮界における英国音楽の第一人者といえるだろう。自分自身、尾高さんの実演には2度接している。1度目は2002年に九州交響楽団との共演で聴いたエルガーの交響曲第1番(過去エルガーの交響曲第2番のブログで少し触れている)。そして2度目は本ブログでも過去にエントリーした2010年の日本フィルとのウォルトンの「ベルシャザールの饗宴」。特に「ベルシャザールの饗宴」は大好きな曲でありながら混成合唱や独唱、金管別動隊を伴う大編成ゆえ、日本ではめったに聴けないと思っていただけに、実演を聴けたときの喜びは大きかった。
BBCウェールズ・ナショナル管弦楽団在任期の音源は過去にラフマニノフのピアノ協奏曲第2番(ピアノ:ジョン・リル)をエントリーしているが、改めて彼らの代表的名盤といえるエルガー(1857-1934)の交響曲第1番収録のアルバムを聴く。収録曲は以下の通り。
エルガー:交響曲第1番変イ長調 作品55
エルガー:序奏とアレグロ 作品47
尾高忠明指揮
BBCウェールズ・ナショナル管弦楽団
(1995年5月録音、Brangwyn Hall, Swansea,Walesにて収録、BIS海外盤)
上記の来日公演の一コマが1995年12月のサントリーホール公演なので、本録音はほぼ同時期のもの。
一聴して感じたのは英国音楽を代表するエルガーへの限りないリスペクトと気高さに満ちた演奏である点。
作品の性格にもよるだろうが、いわゆる手に汗握るような熱演型の演奏ではなく、演奏者の中に秘められた情熱がエルガーの音楽と共に放出される、そんな内なるパッションを感じる名演。エルガー作品には英国オケによる様々な名演・名盤が存在するが、日本人指揮者と共演したエルガー録音として貴重な名盤だと思う。
エルガーというと、クラシックを聴き始めの頃は、「威風堂々」や、「愛の挨拶」といった行進曲や小品が耳に馴染むが、その内、「ニムロッド」を含む「エニグマ変奏曲」に親しむ頃になると、全2作の交響曲作品にも馴染みやすくなると思う。
1楽章の冒頭の主題は当時50歳を過ぎたエルガーが彼自身のこれまでの人生の歩みを振り返るように聴こえ、それはどこかR.シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」的な作風との共通点を感じる。いわゆるドイツ・ロマン派の交響曲作品とは明らかに作風が異なるのだ。そして、2楽章から途切れることなく演奏される3楽章はまさに「ニムロッド」的な展開。自分にとってはお気に入りのニムロッドの別バージョンといった感じ(「エニグマ変奏曲」は1898-1899年頃の作曲)で実に美しい楽章。そして終楽章のコーダでは1楽章の冒頭の主題が本曲の集大成的な位置付けで再度舞い戻って締めくくられる。全体を通じ、外観的な派手派手しさを備えた曲ではないが、「威風堂々」や「愛の挨拶」とは異なる一面を知る良い機会となった。
もう一つ、新たな発見だったのはカップリングの「序奏とアレグロ」(1904-1905年作曲)の演奏の素晴らしさ。これまで他の英国オケ盤で聴いた時には気づかなかったが、彼らの演奏で聴くと交響曲第1番と同様に内なるパッションが溢れているのを感じた。この曲は弦楽合奏曲だが、ヴァイオリン1・2、ヴィオラ、チェロの弦楽四重奏との掛け合いもあり、オケの首席奏者の活躍も聴き所。曲の中心となる主題はウェールズ民謡から引用されているというが、まさにウェールズを代表するオーケストラだけに、燃焼度の高さを窺わせる。
なお、このエルガーの作品が北欧BISレーベルで録音されたことの意義は大きかったと思う。BISの特長である透明感の高さやサウンドの分離の良さみが際立っており、実に鮮度の高いサウンド。個人的には英国発のCHANDOSレーベルもお気に入りだが、この透明度の高さはBISの強みだし、BBCウェールズ・ナショナル管が奏でるサウンドの瑞々しさに浸ることができた。
BISとエルガーの間に一つの共通点を見つけた。北欧の交響曲作品の代表といえばシベリウス。BISには数々のシベリウス作品がレコーディングされているが、シベリウスとエルガーの音楽には芯の強さや内なるパッションが宿っているのを感じる。BISレーベルで双方の作品を味わえるのは嬉しい。その後も以前エントリーしたアンドリュー・リットン&ベルゲン・フィルの組曲「惑星」や「エニグマ変奏曲」のような英国音楽が多くリリースされている。
尾高さん自身、日本のオケともエルガー作品を何度か再録音しているが、本アルバムは英国オケと創り上げたドキュメントな一枚といえるだろう。
【こだクラ関連ブログ】
(尾高忠明/BBCウェールズ・ナショナル管弦楽団関連)
■ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番~ジョン・リル(ピアノ)尾高忠明&BBCウェールズ・ナショナル管弦楽団による名盤
■念願のウォルトン「ベルシャザールの響宴」を聴く~尾高忠明&日本フィル(10月22日サントリーホール)
■震災復興祈願~モーツァルト「レクイエム」ニ短調~ディスク3選(②英国オケ編)
(エルガー関連)
■タスミン・リトル(ヴァイオリン)が奏でる抒情溢れる英国音楽作品集~ディーリアス、ホルスト、エルガー、ヴォーン・ウィリアムズ、モーラン
■エルガー:「弦楽セレナード」~巨匠サー・チャールズ・グローブズ&ロイヤル・フィルによる清涼感漂う名盤
■ロンドン五輪記念★エルガー:威風堂々第1番~ロンドン5大オケによるディスク5選
■ロンドン五輪記念★サー・エドワード・エルガー「愛の挨拶」~ディスク8選(オケ版からピアノ版まで)
■雄弁!エルガー:交響曲第2番~ジェームズ・ジャッド&東京都交響楽団公演(4月22日 東京文化会館)
■合唱版「威風堂々」も高らかに!~東京交響楽団のジルベスター・コンサート(12月31日 ミューザ川崎)
■エルガー「希望と栄光の国」~ギブソン&スコティッシュ・ナショナル管と合唱による気高き名盤
BBCウェールズ・ナショナル管弦楽団在任期の音源は過去にラフマニノフのピアノ協奏曲第2番(ピアノ:ジョン・リル)をエントリーしているが、改めて彼らの代表的名盤といえるエルガー(1857-1934)の交響曲第1番収録のアルバムを聴く。収録曲は以下の通り。
エルガー:交響曲第1番変イ長調 作品55
エルガー:序奏とアレグロ 作品47
尾高忠明指揮
BBCウェールズ・ナショナル管弦楽団
(1995年5月録音、Brangwyn Hall, Swansea,Walesにて収録、BIS海外盤)
上記の来日公演の一コマが1995年12月のサントリーホール公演なので、本録音はほぼ同時期のもの。
一聴して感じたのは英国音楽を代表するエルガーへの限りないリスペクトと気高さに満ちた演奏である点。
作品の性格にもよるだろうが、いわゆる手に汗握るような熱演型の演奏ではなく、演奏者の中に秘められた情熱がエルガーの音楽と共に放出される、そんな内なるパッションを感じる名演。エルガー作品には英国オケによる様々な名演・名盤が存在するが、日本人指揮者と共演したエルガー録音として貴重な名盤だと思う。
エルガーというと、クラシックを聴き始めの頃は、「威風堂々」や、「愛の挨拶」といった行進曲や小品が耳に馴染むが、その内、「ニムロッド」を含む「エニグマ変奏曲」に親しむ頃になると、全2作の交響曲作品にも馴染みやすくなると思う。
1楽章の冒頭の主題は当時50歳を過ぎたエルガーが彼自身のこれまでの人生の歩みを振り返るように聴こえ、それはどこかR.シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」的な作風との共通点を感じる。いわゆるドイツ・ロマン派の交響曲作品とは明らかに作風が異なるのだ。そして、2楽章から途切れることなく演奏される3楽章はまさに「ニムロッド」的な展開。自分にとってはお気に入りのニムロッドの別バージョンといった感じ(「エニグマ変奏曲」は1898-1899年頃の作曲)で実に美しい楽章。そして終楽章のコーダでは1楽章の冒頭の主題が本曲の集大成的な位置付けで再度舞い戻って締めくくられる。全体を通じ、外観的な派手派手しさを備えた曲ではないが、「威風堂々」や「愛の挨拶」とは異なる一面を知る良い機会となった。
もう一つ、新たな発見だったのはカップリングの「序奏とアレグロ」(1904-1905年作曲)の演奏の素晴らしさ。これまで他の英国オケ盤で聴いた時には気づかなかったが、彼らの演奏で聴くと交響曲第1番と同様に内なるパッションが溢れているのを感じた。この曲は弦楽合奏曲だが、ヴァイオリン1・2、ヴィオラ、チェロの弦楽四重奏との掛け合いもあり、オケの首席奏者の活躍も聴き所。曲の中心となる主題はウェールズ民謡から引用されているというが、まさにウェールズを代表するオーケストラだけに、燃焼度の高さを窺わせる。
なお、このエルガーの作品が北欧BISレーベルで録音されたことの意義は大きかったと思う。BISの特長である透明感の高さやサウンドの分離の良さみが際立っており、実に鮮度の高いサウンド。個人的には英国発のCHANDOSレーベルもお気に入りだが、この透明度の高さはBISの強みだし、BBCウェールズ・ナショナル管が奏でるサウンドの瑞々しさに浸ることができた。
BISとエルガーの間に一つの共通点を見つけた。北欧の交響曲作品の代表といえばシベリウス。BISには数々のシベリウス作品がレコーディングされているが、シベリウスとエルガーの音楽には芯の強さや内なるパッションが宿っているのを感じる。BISレーベルで双方の作品を味わえるのは嬉しい。その後も以前エントリーしたアンドリュー・リットン&ベルゲン・フィルの組曲「惑星」や「エニグマ変奏曲」のような英国音楽が多くリリースされている。
尾高さん自身、日本のオケともエルガー作品を何度か再録音しているが、本アルバムは英国オケと創り上げたドキュメントな一枚といえるだろう。
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(尾高忠明/BBCウェールズ・ナショナル管弦楽団関連)
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