CD棚に夫がCMをセットすると、棚が上下に開き、格納されていた車が地中から上がってくる。車が発進するのは何と滝の中。軽快に発進する車の中で妻が「ちょっとやりすぎじゃない?」とささやく。照れ笑いする夫……「サンダーバード」での印象的な一コマがBGMと共に、現在スバル「FORESTER」のCMで流れている。「サンダーバード」といえば、今から40年以上も前の1965年に英国のテレビで放映されていた人気の特撮人形劇ドラマ。当時の子供達から圧倒的な支持を得た人気ドラマは、日本でも一時期放送されていた事がある。
自分はリアルタイムで見ていないが、このCMを見て懐かしさがこみ上げてくる世代もいる事だろう。そんな世代に向けた見事なターゲティングCMだと思う。ちなみにYou Tubeでも懐かしのシーンを垣間見る事ができる。
その「サンダーバード」のアルバムが、確か、英国の名門、ロイヤルフィルハーモニー管弦楽団で演奏されたものがリリースされているとの情報は以前から掴んでいたが、今回のCMをきっかけに、早速タワーレコードで入手した。
収録はあの有名なアビーロードスタジオだが、このアルバムは日本の制作サイドからの意向で実現したろいうこだわりの豪華仕様なアルバム。
○コンスタンチン・パブロフ指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
('92年5月26日録音、アビーロードスタジオNo1にて収録、
徳間ジャパン国内盤)
①組曲サンダーバード プレリュード
②スペース1999
③ジョー90
④スティングレイ メドレー
⑤謎の円盤UFO
⑥キャプテンスカーレット
⑦~⑬組曲サンダーバード 第1~7楽章
実に素晴らしい演奏!CMでも使用されている①の「プレリュード」をまず聴いただけで、迫力あるサウンドにしょっぱなから度肝を抜かれてしまった。テーマを奏でるトロンボーンセクションの勇壮さ、テーマと掛け合うトランペットセクションの豪快さ、行進曲風のリズムを刻むパーカッションセクションの迫力、中間部の優しい旋律から漂うストリングスセクションの気品さ・・・それぞれのパートが完全一体化した演奏を聴かせてくれる。オケのメンバーにとっても自国のドラマであるだけに、愛着が伝わってくる。ライナーノーツを見ると、実際のレコーディングも和気あいあいだった様子がドキュメント風に記されており、興味深い。
②の「スペース1999」も素晴らしい!アップテンポなドラムのビートに乗りながら、今度はホルンが冒頭から勇壮な旋律を奏でる。サンダーバードの乗組員達が、決死の救出活動を行うような緊張感が伝わってくるアクションシーン風のノリだ。ラストのトランペットセクションのハイトーンもばっちりと決まっている。
運動会の競技種目でいうなら、騎馬戦(?)のBGM、「ドラゴンクエスト」でいうなら戦闘シーンとでもいうべきシーンにぴったり(^^)
全体を通して、ロイヤル・フィルのノリの良さ、演奏づくりにかける勢いの良さといったものが感じられてくる。ウィンナ・ワルツのあの独特のテンポ感はウィーン・フィルでしか実現しえないように、この演奏は日本のオケではなし得ないノリだろう。これはひとえにオケの映画音楽をはじめとするサントラへの高度な適応力と高い技術力に裏打ちされている。
英国のオケで演奏された有名な映画サントラというと、まずロンドン交響楽団の「スター・ウォーズ」が思い浮かぶけれど、ロイヤル・フィルも過去大ヒットを飛ばした「フックト・オン・クラシック」や、最近ではビーチ・ボーイズのシンフォニックアルバム、はたまた日本のフュージョンバンド、Tスクエアとの共演アルバムまで、あらゆるジャンルに精通したオケでもある。今や伝説(?)となった人気番組、「電波少年」で猿岩石が世界一周で辿り着いたゴール、ロンドンのトラファルガー広場で祝典演奏を行ったのもロイヤル・フィルだったと記憶している。
もちろんメインのクラシックでもアンドレ・プレヴィンやカール・デイヴィスといった一流の指揮者と共演していたわけだから、オケのメンバーは相当な腕っこきな奏者の集まりなのだろう。
多様なジャンルへの柔軟性と、高い技術力、名指揮者達との共演・・・自分が英国オケを気に入っている理由の一つだ。
ライナーノーツには「サンダーバード」の生みの親、映像プロデューサーのジェリー・アンダーソン(画像:下)からのメッセージが寄せられている。ここにそのメッセージから言葉の一部を引用してみたい。
『~「サンダーバード」がこれほどの支持を得た理由を私の立場から分析させていただきます。私は自分の創作活動の初期において、子供たちは「アクション」「迷い」「スリル」そして「破壊」というファクターが多く含まれた映画作品を好むという事実を発見していました。そのため、私の作品の多くはアクションをフィーチャーしています。しかし、無意味な暴力を避けるために、私は善の正義が悪の力と戦い、善は必ず勝利を収めるという構造を取り入れた作品を作るようにしてきました。「サンダーバード」を例に取りますと、アクションシーンは人命を破壊するのではなく、救助するということです。~』
“人命を破壊するのではなく、救助するということ”。ここにも「サンダーバード」の人気の秘密が隠されているように思った。