バッハの「ヴァイオリン・ソナタ」、「ブランデンブルク協奏曲」と偶然にもバッハが連続したが、今回は以前からコーヒーを味わうひとときのカフェタイムのBGMとしても長らく愛用してきたお気に入りの音源を。それはオーボエ奏者でベルギー出身のマルセル・ポンセール(b.1957)が主宰する、「イル・ガルデリーノ」というベルギーの古楽器団体によるバッハの「オーボエ協奏曲集」というアルバム。原曲はバッハ「チェンバロ協奏曲」の為、ピアノでも演奏されることの多い曲だ。
このアルバムで聴かれるオーボエは厳密にいうと、「バロック・オーボエ」、「オーボエ・ダモーレ」、「オーボエ・ダ・カッチャ」という3種類の楽器。バロック・オーボエは現在のオーボエの祖先、オーボエ・ダモーレは、オーボエとイングリッシュ・ホルン(ドボルザーク「新世界」の2楽章でもお馴染み)の中間の音域を奏でる楽器、オーボエ・ダ・カッチャはイングリッシュ・ホルンの祖先にあたる。このアルバムでは、これらのバロック・オーボエ、オーボエ・ダモーレ、オーボエ・ダ・カッチャの3種類を使い分けて演奏されている(各々の楽器の外観:画像下)。収録曲は下記の通り。
①J.S.バッハ:オーボエ協奏曲変ホ長調BWV1053a
②J.S.バッハ:オーボエとヴァイオリンのための協奏曲BWV1060a
③J.S.バッハ:オーボエ・ダモーレ協奏曲BWV1055a
④J.S.バッハ:オーボエ協奏曲BWV1059R
⑤マーラー:私はこの世に捨てられて(マルセル・ポンセール編曲)
マルセル・ポンセール(①②④バロック・オーボエ、③オーボエ・ダモーレ、⑤オーボエ・ダ・カッチャ)
寺神戸 亮(Vn)
イル・ガルデリーノ
(2004年9月録音、聖アポリネール教会、ベルギーにて収録、ACCECT海外盤)
曲もさることながら、何よりこれらのオーボエで奏でられるマルセル・ポンセールの音が素晴らしい!オーボエ自体、もともとまるみがある音だが、ここで聴かれる古楽器のオーボエ群はより木質感と深みのある音がする。ジャケットに記載されているが、これら古楽器のオーボエ群はポンセール自作のようだ。伴奏の弦楽器と共に基本的にビブラートをかけず、音がまっすぐに伸びるピュアで清涼感溢れるサウンド。聴いているといつまでも浸っていたいと気持ちにさせてくれる、どこか癒される音だ。
オーボエと同じく、古楽器を用いたストリングスの掛け合いも清らかで美しい。イル・ガルデリーノの演奏は、情景で例えるなら、木漏れ日から差し込むほのかな光、もしく穏やかな朝の光、とでもいったようなシーンが思い浮かぶ。それゆえ、くつろぎのカフェタイムにもしっくりとくるのだ。
ここでソロ・ヴァイオリンを務めるのは日本のバロック・ヴァイオリンの第一人者で、バッハ・コレギウム・ジャパンや、ラ・プティット・バンドのメンバーとしても活躍している寺神戸亮氏(b.1961)。ヴァイオリン×3、ビオラ×1、チェロ×1、コントラバス×1、ハープシコード×1と、ポンセールを含めて8名という小編成だが、充分に厚みのあるアンサンブルを聴かせてくれる。寺神戸氏を含め、ビオラにも 日本人演奏家が参加しており、日本人アーティストが古楽器においても、世界の第一線で活躍しているのは誇らしいことだ。
④の第2楽章はカンタータ第156番「わが片足すでに墓穴に入りぬ」のシンフォニアが原曲で、一般的には「バッハのアリオーソ」という名称で知られているが、ここで聴かせるポンセールのオーボエは実に素朴な味わいで、心にすっと入っていくような癒しに満ちている。
また、最後の収録曲はバッハでなく、マーラーの「フリードリヒ・リュッケルトによる5つの歌曲」より第3曲の「私はこの世に捨てられて」の原曲をポンセール自身がオーボエ+弦楽器に編曲したもの。ここでのオーボエ・ダ・カッチャの低域且つ深みのある音も実に曲とマッチしている。
収録会場での教会での残響をほどよく取り入れたACCENTレーベルの高品位な録音も素晴らしいことを特筆しておきたい。
検索した所、You Tube上で、上記の演奏の内、②の「オーボエとヴァイオリンのための協奏曲BWV1060a」がアップされていた。彼らの名演が映像でも見られるのは嬉しい。
https://www.youtube.com/watch?v=n49xUzpsdfM
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