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最近リリースされた吹奏楽の最新アルバム「渋谷ブラスフェスタ 2010」を聴く。購入のきっかけは「アルヴァマー序曲」や、「ディスコ・キッド」等、お気に入り曲が収録されていた事だったが、最大の関心事は、在京オケの一つ、東京フィルハーモニー交響楽団の管打楽器セクションが、「東京フィルハーモニーウィンドオーケストラ」として演奏している点。昨年もN響による吹奏楽を聴いたばかりだが、昨今、オケの吹奏楽編成によるコンサートが増えてきたようだ。
クラシック専門のオケにとっては、ある意味、吹奏楽という異ジャンルへの進出といえるが、見方を変えれば、聴衆を増やす絶好のマーケティング手法といえる。アルバムの収録曲に引き続き、聴衆、演奏者、運営サイドと、それぞれの視点で、メリットを考察してみた。


(第一部)  指揮:渡邊一正
1. アルヴァマー序曲 (吹奏楽)/J.バーンズ
2. エル・カミーノ・レアル (吹奏楽)/A.リード
三つのジャポニスム (管弦楽版)/真島俊夫 (世界初演)
3. I. 鶴が舞う
4. II. 雪の川
5. III. 祭り

(第二部)  指揮:真島俊夫
6. サンバ・エキスプレス/真島俊夫
7. 交響曲第一番 第四楽章/J.ブラームス(編:天野正道)
8. 別れの曲/F.ショパン (編:星出尚志)
9. マンテカ/D.ガレスビー・L.ポゾ(編:真島俊夫)
10. New Year March/真島俊夫(世界初演)
アンコール  指揮:渡邊一正 指揮:真島俊夫
11. ディスコ・キッド/東海林 修/(指揮:渡邊一正)
12. ハッピー・バースディ・トゥー・ユー/M.J.ヒル・P.S.ヒル(編/指揮:真島俊夫)

【特典DVD トラックリスト】
1. 渡邊一正:アルヴァマー序曲 (吹奏楽)/J.バーンズ
2. 真島俊夫:三つのジャポニスム(オーケストラ版世界初演)
3. 真島俊夫:New Year March(世界初演)

指揮:渡邊一正(第1部)、真島俊夫(第2部)
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
吹奏楽:東京フィルハーモニーウインドオーケストラ(TPWO)
 (2010年1月11日録音、オーチャードホールにてライブ収録、ブレーン国内盤)


○聴衆(特に現役のブラバン世代)にとって

ウィンド・バンドにとって、オーケストラ作品は欠かせないレパートリー。特に現役のブラバン世代にとっては、オケによる演奏を聴く事でオリジナルに触れるきっかけができる。本アルバムでは、本来、吹奏楽版のみだった「三つのジャポニズム」のオケ版が披露されることで、オケによる表現の多彩さを追求できるし、ブラームスの「交響曲第一番~第4楽章」や、ショパンの「別れの曲」のようなクラシック作品に吹奏楽ならではのアレンジが施されているのも、オーケストラと吹奏楽をコラボさせようという試みなのかもしれない。昨年のN響の吹奏楽公演においては、後半の部でオケ編成による「ローマの祭り」が演奏され、ウィンド・バンドで愛奏されるレパートリーが取り上げられていた。

○オケのメンバーにとって

オケの管打楽器奏者には、元々ブラバン出身者が多い事に加え、管楽器関連のコンクールでの入賞経験者等も多い。オケの管打楽器セクションの実力をアピールする絶好の場になるだろう。メンバーのほとんどがオケ奏者で選抜された「なにわ オーケストラル ウィンズ」も、その良い例かもしれない。

○運営サイドにとって

運営サイドにとって、若い世代を取り込むのは目下の課題。吹奏楽というジャンルに進出する事で、特に現役のブラバン世代を呼び込めれば、将来的な囲い込みにもつながる。コスト的な負担も、オケメンバーから弦楽器奏者を抜くだけなので少ないだろう。また、編成だけでなくプログラムにも様々なヴァリエーションが組めるのは大きなメリットとなる。

また、「渋谷ブラスフェスタ 2010」というタイトルにも見られるように、「渋谷」という学生の流行の発信地を前面に出している点や、人気作曲家の真島俊夫氏(b.1949)をゲスト・コンダクターに招き、この日の為に作曲された新曲も披露している点、また、公演の最後には、、佐渡裕&シエナ・ウィンド・オーケストラのように学生とのコラボステージをプログラミングしている点等、様々な工夫が凝らされている。本アルバムには、DVD特典や共演した学生との集合写真がジャケット内に封入されているあたりもニクイ演出だ(^^)

まさにいいことづくめ。これは裏を返せば、既存のプロのウィンド・バンドとの競争激化を意味するし、彼らにとってはオケ団体との差別化がますます求められる事になるだろう。ライナー・ノーツに収められた指揮者の渡邊一正氏(b.1966)のエピソードも興味深い。コンクールという仕組みが、日本の吹奏楽界を盛り上げてきたのは事実だが、それだけではない方法もある事を、このアルバムは示してくれたように思う。
「渋谷ブラスフェスタ」は次回も開催が決定しているという。このような祭典(フェスタ)が、クラシック業界の発展にもつながる事を何より期待したい。