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待望のアルバムが出た。シカゴ響のブラスセクションによるライヴアルバムがシカゴ響のオリジナルレーベル(CSO RESOUND)より発売された。昨年、シカゴ響のブラスクインテットの来日公演を聴いた記憶がまだ新しいが、今回はブラスセクションの総勢21名(トランペット:7名、ホルン:6名、トロンボーン:6名、チューバ:2名、画像下)による演奏。ホルンの大御所、デイル・クレヴェンジャー(b.1940)もまだ現役で加わっている(しかも指揮まで!)のが嬉しい。伝説のトランペット奏者、アドルフ・ハーセス(b.1921)の引退後、首席ポストを射止めた若きクリストファー・マーティンがシカゴ響のブラスセクションのサウンドをどうリードしているのかも関心のある所だった。
収録曲は以下の通り。

①ウォルトン:戴冠式行進曲『王冠』(ヨセフ・クラインス編曲)
②G.ガブリエリ:サクラ・シンフォニア第6番(エリック・チース編曲)
③G.ガブリエリ:第12旋法による10声のカンツォーナ(エリック・チース編曲)
④G.ガブリエリ:第7旋法による8声のカンツォーナ第2番(R.P.ブロック編曲)
⑤J.S.バッハ:パッサカリアとフーガ ハ短調 BWV 582(エリック・チース編曲)
⑥グレインジャー:リンカンシャーの花束(ティモシー・ヒギンズ編曲)
⑦レブエルタス:センセマヤ(ブルース・ロバーツ編曲)
⑧プロコフィエフ:『ロメオとジュリエット』
 ~『モンタギュー家とキャピュレット家』『踊り』『ティボルトの死』(ヨセフ・クラインス編曲)

シカゴ・シンフォニー・オーケストラ・ブラス

【トランペット】クリストファー・マーティン( 首席)、マーク・ライデノー、ジョン・ハグストロム、テージ・ラーセン、デイヴィッド・ゴーガー、デイヴィッド・インモン、チャニング・フィルブリック
【ホルン】デイル・クレヴェンジャー(首席)、ダニエル・ギングリッチ、ジェームス・スメルサー、デイヴィッド・グリフィン、オットー・カリッロ、スザンナ・ドレイク
【トロンボーン】ジェイ・フリードマン( 首席)、マイケル・マルケイ(テノール・チューバ兼任)、チャールズ・ヴァーノン、マイケル・ベッカー、ペーター・エルフソン
【バス・トロンボーン】ランダル・ホーウェ
【チューバ】ジーン・ポコーニー( 首席)、アンソニー・ニッフェン


(2010 年12月16~18日録音、シカゴ、オーケストラ・ホールにて収録、CSO RESOUND海外盤)


①のウォルトンは、吹奏楽版で、ジョン・ウォーレス率いる団体、「ウォーレス・コレクション」の音源で聴いた事がある。テンポに勢いがあり、かつ堂々とした吹きっぷりは、まるでこの曲がシカゴ響ブラスのテーマ曲であるかのように鳴り響く。とはいえ、中間部の崇高な旋律はやはり弦主体で聴きたい所。直後にオリジナルのオケ版(演奏は、マイベスト盤であるウィルコックス&フィルハーモニア管盤)で聴いてしまったのは無理もない。
②~④のガブリエリを聴くと、どうしても比較してしまうのは、本家フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルとの演奏。さすがに緻密さではフィリップ・ジョーンズ盤には及ばないものの、クリストファー・マーティンの音色を含め、シカゴ響のブラスセクションのハーモニーが見事に調和する様を感じ取る事ができる。
ライヴゆえか、コンサートが進むにつれ、各楽器の音も鳴ってきたのだろう、⑤のバッハでは、パイプオルガンのような重厚感が聴き所。
⑥のグレインジャーが選曲にラインナップされたのは没後50年を意識してのものだろうか。民謡的な素朴な味わいが良く、彼らの演奏がきっかけで改めてこの曲の素晴らしさを再認識。オリジナルの吹奏楽版を聴いてみたくなった。
⑧のプロコフィエフは、普段のオケレパートリーになっている事もあり、従来のシカゴ響のブラスセクションの強みであるマッシブなサウンドが堪能できる。元々金管が活躍する曲とはいえ、ブラスセクションだけでもオリジナルにここまで近付ける表現力が驚異だ。ちなみに、指揮はクレヴェンジャーが担当している。

全体を通じ、ハーセス時代にはなかったマイルドさが加わり、アンサンブルによる一体感が全面に出た印象を持った。“ブラス軍団”と称された時代の、パワーでゴリゴリと押していくようなタイプではない所に、シカゴ響の新たなサウンドの息吹を感じると共に、時代の変遷を感じたのも事実。

しかしながら、複数のオケでなく、同一のオケからメンバー構成されるブラス・セクションのアルバムがリリースされるのは、やはり同団の看板セクションとなっている証拠。以前も、ロイヤル・コンセルトヘボウ管のブラスや、ロンドン響のブラスベルリン・フィルのブラスをエントリーした事があるが、新生シカゴ響ブラスには、今後も第2弾、第3弾の新たなリリースを期待したい。

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