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マーラーやワーグナー指揮者としてのイメージの強いクラウス・テンシュテット。
自分の好きなディスクをブログにもエントリーしようと思いつつも、敬愛する指揮者だけにどこかにためらいがあったのだが、今回その取っ掛かりとなるディスクができた。
最近リリース(というより発掘?)されたベルリン放送交響楽団(現:ベルリン・ドイツ交響楽団)の一枚で、曲はモーツァルトの「ピアノ協奏曲第12番」とハイドンの「交響曲第57番」('73年9月11日録音、ベルリンの放送スタジオにて収録、WEITBLICK輸入盤)。テンシュテット・ファンには意外な組み合わせの選曲だ。

まずモーツァルト。12番を聴くのはもしかすると、このディスクが初めてかもしれない。おまけに、カール・エンゲルというピアニストもこれまで知らなかったピアニスト。ネットで調べると1923年にスイス・バーゼルに生まれたピアニストで、昨年06年に83歳で亡くなっている。何も知らない分、先入観なしに聴けたのだが、12番の第2楽章アンダンテの美しい旋律にすっかり惹かれてしまった。エンゲルは、ここぞというような強い主張の感じられる演奏ではなく、オーケストラに寄り添い、まさに絶妙なバランス感覚を見せる。

そしてハイドンの交響曲第57番。こちらも自分にとっては初顔合わせ。クラシックを聴き始めの頃、ハイドン作品にはどことなく聴いていて単調というイメージがあった。「運命」や「新世界」のような刺激の強い(?)曲を求めていた小・中学時代にはまだそのハイドンの奥深さに気付いていなかった。しかし3年前に水戸芸術館で聴いたファジル・サイによるハイドンのピアノソナタを聴いて以来、その印象は一変する。ハイドンの作品ってなんて即興性に溢れているんだろう…と。この57番も聴いていて実に新鮮。その即興性はやはり同時代のモーツァルトに通じるものがある。先日聴いたペーター・レーゼルのピアノ・ソナタも良かったなあ・・・。
オケの編成はモーツァルト同様小編成と思われる。艶感のあるベルリン放送響のストリングスセクションの美しさも特筆ものだし、録音も思った以上に良好。

ドイツのオケである点、70年代初期の放送音源である点も興味深い。EMIに本格的デビューを飾る前の録音が07年の現在でも発掘され、リリースされている事をファンとして喜びたい。なお、このレーベルは前回もテンシュテットによるショスタコーヴィッチの「交響曲第5番」の音源をリリースする等、積極的な様子。ライナー・ノーツには人気の評論家、許光俊氏が執筆していたり、ジャケット表紙がサントリーホールでの来日公演のものを使用するあたり、日本向け市場を意識している感もある。今後も是非期待したい。

メジャーレーベルとは違う、テンシュテットのまた別の一面を見せてくれる貴重なディスクと感じた。