令和元年がスタートした。平成から令和という新たな時代の到来を祝して、今回はマーラーの大作、交響曲第8番の「千人の交響曲」を。こだクラで複数所有する「千人の交響曲」のディスクの中で、今回チョイスしたのは敬愛するラファエル・クーベリック盤。クーベリック(1914-1996)といえばマーラー演奏の先駆者の一人であり、1960年後半-1970年初にかけてマーラーの交響曲全集を完成という偉業を成し遂げている。自分自身、マーラーの交響曲は中学時代に第1番「巨人」をクーベリック&バイエルン放送交響楽団盤を通して親しんだだけあって、クーベリックのマーラーにはどこか特別な思い入れがある。
今回エントリーするクーベリックの「千人の交響曲」は、ドイツ・グラモフォンレーベルによる有名なマーラー交響曲全集のセッション音源(ジャケット画像右)とは別に、放送録音によるライヴ音源(ジャケット画像左)が存在しており、各々1日違いで同じキャストによる録音という興味深い聴き比べができる。エディット・マティス(b.1938)やディ-トリヒ・フィッシャー=ディースカウ(1925-2012)といった名立たる独唱者が出演しているのもポイント。2つの音源は以下の通り。
■マーラー:交響曲第8番変ホ長調「千人の交響曲」
(独唱)
ソプラノ:マーティナ・アーロヨ、エルナ・スポーレンベルク、エディト・マティス
アルト:ユリア・ハマリ、ノーマ・プロクター
テノール:ドナルド・グローベ
バリトン:ディ-トリヒ・フィッシャー=ディースカウ
バス:フランツ・クラス
(合唱)
バイエルン放送合唱団、北ドイツ放送合唱団、西ドイツ放送合唱団
レーゲンスブルク大聖堂少年聖歌隊、ミュンヘン・モテット女声合唱団
(オルガン)エーベルハルト・クラウス
ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送交響楽団
【①ライヴ】
1970年6月24日録音、ドイツ博物館コングレスザール、ミュンヘンにて収録、audite海外盤
【②セッション】
1970年6月25・26日録音、ドイツ博物館コングレスザール、ミュンヘンにて収録、ドイツ・グラモフォン海外盤
ライヴ音源がセッション音源より1日先行してのレコーディング。どちらも名演だが、2枚のディスクの聴き比べでは、オケ・合唱・独唱共にセッション音源より白熱した演奏を展開しているライヴ音源がお気に入り。クーベリックのバイエルン放送響での首席指揮者時代に、放送用のライヴ音源が多々残されているが、クーベリックはやはりライヴで燃えるタイプの指揮者のようだ。第1部冒頭からオケ・合唱・独唱が一体となって突き進む推進力に、終始圧倒させられてしまう。ともすると、スケールの壮大さゆえに、表面的な演奏効果が前に出てしまいがちだが、彼らの演奏には楽曲の核心に迫りくるような実直且つ音楽的な統一感があり、まさに人間讃歌というべきものになっている。サウンドバランスが崩れそうな部分が所々あるものの、そんなところは問題にはならない。むしろ、ライヴならではのテンションの高さに胸が熱くなってくるものがある。特に第1部のコーダではソプラノ独唱を含め、セッション音源とは異なる圧倒的な高揚感があり、思わず鳥肌が立ってしまった。マーラーの「千人の交響曲」は、地から沸き出でるサウンド、というよりは、まさに小宇宙的なサウンド、と形容した方がふさわしいかもしれない。音楽の持つ力がここにはある。
このauditeによるライヴ音源はセッション録音より音が良いのもポイントで、CD+SACDのハイブリッドに加え、SACD層もあるので、SACDプレーヤーで聴くと臨場感がより増すのが嬉しい。クーベリックは全10の交響曲を1967年2月に第9交響曲からレコーディングを開始、その後第3番→第1番→第4・10番→第6番→第2番→第8番→第7番→第5番(1971年1月)と約4年の歳月をかけて完成させている。録音から既に半世紀が経とうとしているが、マーラー交響曲全集の一つの金字塔であることは間違いない。
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