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トランペットラブレター」で取り上げたニニ・ロッソの「夜空のトランペット」つながりで、今度はチェコ・フィルの元首席トランペット奏者、ミロスラフ・ケイマル(b.1941)のトランペットソロ・アルバムを。アルバム「マイウェイ」(2005年8月録音、ドヴォルザーク・ホール、CRYSTON国内盤)の中に、その「夜空のトランペット」は収録されている。トランペット+パイプオルガン(奏者:アレシュ・バールタ)という編成ながら、ビブラートをだっぷり効かせ、ムード音楽の第一人者だったトランペット奏者のニニ・ロッソばりの見事な音をきかせてくれる。2006年にチェコ・フィルを引退する前年の貴重なレコーディング。

本アルバムは全24曲中、著名なクラシックナンバーに加え、この「夜空のトランペット」や「スターダスト」「枯葉」「ミスティ」「マイウェイ」など、ポピュラーなスタンダードナンバーも多く収録されており、ケイマルファンには嬉しいプログラミング。彼がクラシックからポピュラーまでいかにマルチだったことかということを証明してくれている。曲によってトランペットとフリューゲルホルンを使い分け、クラシカルな響きからムーディーな響きまで自由自在に操る音作りに、彼のやりたかった音楽がこのアルバムに集約されているのを感じる。

1970年にチェコ・フィルに入団以降、約35年に渡ってオケを支え続けてきたブリリアントで透明感のある音色はここでも健在。また、彼の音色にはまろみとふくよかさがあるので、フォルテでも尖らないのが持ち味といえるだろう。録音当時既に64歳、年輪を感じさせながらも、ケイマルでしか出せない音、ケイマルならではの音がここにはある。その点においては、シカゴ響だとアドルフ・ハーセス、ロンドン響だと、モーリス・マーフィーロド・フランクスと同じような存在だ。最後に収められた「マイウェイ」では後半にメイナード・ファーガソンばりのハイトーンを聴かせてくれており、体力的にはまだまだ健在であることをうかがわせてくれた。

実際、彼は現役時代からオケマンとしてのみならず、ソロやブラスアンサンブルの活動でも積極的だった。以前エントリーしたクリス・ヘイゼルの名曲「ミスター・ジャムス」でのフリューゲル・ホルンのソロや「ニューヨークのロンドンっ子」に代表されるように、レパートリーの開拓にも積極的だったのを窺わせる。その後、スタジオジブリの「ハウルの動く城」のサントラ集でも彼のソロが聴かれるようになり、日本のお茶の間でも馴染みとなった。
チェコ・フィル出身のプレーヤーで、やはり世界の舞台で活躍するプレーヤーに、チェコ・フィル→ミュンヘン・フィル→ベルリン・フィルと一気に駆け登り、現在はソリストや指揮者として活躍するホルン奏者のラデク・バボラーク(b.1976)がいる。同じくホルン奏者でチェコ・フィルを長年支えたティルシャルと共に、チェコは著名なブラスプレーヤーを輩出する国でもあるようだ。

収録会場は自分自身も訪れたチェコ・フィルのメイン拠点であるドヴォルザーク・ホール(ルドルフィルム)だけに、ホールトーンも熟知したこれ以上ない組み合わせ。彼とは長年の親交があり、彼の音楽の集大成ともいえるアルバムを世に送り出したプロデューサーの江崎友淑氏の力にも感謝したい。

1. 歌劇「サトコ」~インドの歌(リムスキー=コルサコフ)
2. わが母の教えたまいし歌(ドヴォルザーク)
3. 歌劇「ホフマン物語」~ホフマンの舟歌(オッフェンバック)
4. 歌劇「サムソンとデリラ」~あなたの声に心は開く(サン=サーンス)
5. 「動物の謝肉祭」~白鳥(サン=サーンス)
6. マイ・ムーンライト・マドンナ(フィビヒ)
7. ヘ調のメロディ(ルビンシュタイン)
8. 歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」~間奏曲(マスカーニ)
9. 「子供の情景」~トロイメライ(シューマン)
10. バレエ音楽「スパルタクス」~アダージョ(ハチャトリアン)
11. 峠の我が家
12. ミュージカル「ロバータ」~煙が目にしみる(カーン)
13. シャーメイン(ラッペ)
14. 歌劇「ポギーとベス」~サマータイム(ガーシュイン)
15. 「オズの魔法使い」~虹の彼方に(アーレン)
16. ミュージカル「マイ・フェア・レディ」~あの娘の顔に慣れてきた(ロウ)
17. スターダスト(カーマイケル)
18. 枯葉(コスマ)
19. ミスティ(ガーナー)
20. 「ピノキオ」~星に願いを(ハーライン)
21. ミュージカル「ガール・クレイジー」~エンブレイサブル・ユー(ガーシュイン)
22. 夜空のトランペット(ロッソ)
23. 歌(スルカ)
24. マイウェイ(アンカ)


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