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イツァーク・パールマンといえば、甘美な音色を持つヴァイオリニストという印象がある。彼の音色に惚れ込んだ映画音楽の巨匠ジョン・ウィリアムズが映画「シンドラーのリスト」のメイン・テーマを奏でるソリストとして抜擢したり、以前エントリーした「ニュー・シネマ・パラダイス」等の映画音楽のアルバムで共演した理由もうなづける。
クラシックから映画音楽までマルチに活躍する彼の姿はどこか、チェロのヨー・ヨー・マと重なる部分もある。そんなパールマンの本業となるクラシックのアルバムを聴く機会はこれまでそんなになかったのだが、今回、彼が40~41歳問当時、'86~87年にかけて録音した「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」全曲(以下、「無伴奏バイオリン」と表記)のアルバムを聴いてみた。

○イツァーク・パールマン(Vn)
  ('86年1月、'87年5~6月録音、コンコルディア・カレッジ、ニューヨーク
  にて収録、EMI国内盤)


このディスクは、改めてパールマンのヴァイオリンの音色と音楽性に開眼するきっかけとなった。バッハの「無伴奏ヴァイオリン」が、こんなに気持ち良く聴けるとは・・・。
パールマンの音色にはしっとりとした手触り感がある。保水成分を含んだ、とでもいうのだろうか。全曲を通して聴いても、弦の摩擦音が耳障りになる事はなく、むしろ耳にすっと馴染んできてくる。それが、甘美な音色と感じる所以でもあるのだろう。後で知った事だが、彼が1714年製のストラディヴァリウスを使用していることも音色作りにとって大きな要素となっているに違いない。
この「無伴奏ヴァイオリン」はヴァイオリニストにとってのバイブルとも呼べる作品で、超絶技巧を要する難度の高い作品だが、彼の演奏には自身をテクニックをひけらかそうとするような誇張は全く感じられない。純粋にバッハと向き合った音楽だけが聴こえてくるようで、聴き手に解釈を委ねさせてくれるような自由度の高い演奏に仕上がっている。

これまでバッハの「無伴奏ヴァイオリン」といえば、自分の中ではまず「パルティータ 第2番 ニ短調 BWV.1004」の第5曲「シャコンヌ」を思い浮かべていた。おそらく同曲の中ではヴァイオリニストが最もよく演奏するコンサート・ピースではないだろうか。自分自身この曲を初めて聴いたのは中学校時代だっただろうか、日本のヴァイオリニスト、前橋汀子氏のアルバムだったのを憶えている。旋律は、全体を通して厳かで張り詰めた空気が漂い、襟を正して聴くような印象を受ける曲だった。

今回改めて全曲を聴きとおしてみて改めて心に響いた曲が多くあった。例えば「パルティータ 第1番 ロ短調 BWV.1002」より「ブーレー」の、その恰幅の大きな旋律がそうだし、「ソナタ 第3番 ハ長調 BWV.1005」の終曲、「アレグロ・アッセイ」の、常に休むことなく奏でられる旋律を聴いていると、何となくパワーが体全体に漲ってくるよう。ちなみに2曲目の「フーガ」が何となく“ロンドン橋落ちた・・・♪”の変奏曲風に聴こえてしまうのは自分だけだろうか?(^^)
「パルティータ 第3番 ホ長調 BWV.1006」は全曲を通してのお気に入り。中でも第3曲「ガヴォット・アン・ロンドー」は誰もが一度はどこかで聴いた事がある有名な旋律ではないだろうか。

それと、聴きながら単純な事にも気づいた。朝聴くときは短調より、長調の調性の方が、肌感覚に合うこと。通勤時に聴くので、テンションとの兼ね合いもあるからだろう。ちなみにこの曲、SONYの最上級ヘッドフォンを購入した当時は、テスト試聴も兼ねてipod通勤時によく聴いていたものだ。
当初、レーベルがEMI、しかも国内盤だったので音質はあまり期待してなかった(^^;のだが、実に素晴らしいサウンドで鳴ってくれた。ヴァイオリンを始めとするストリングスはQUADのスピーカーにも良く合い、実に気持ちよさそうに鳴ってくれるのも嬉しい。オーディオ的に欠かせないソースとしても聴けそうだ(^^)