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吹奏楽には吹奏楽オリジナルの作品に出会う楽しみがある。中でも交響曲はクラシックと同様、作曲家の総力を結集した聴き応えのある大作が多い。自分自身、1998年に高校のOB吹奏楽団で交響曲を演奏した経験があるが、それは人気作曲家、ジェイムズ・バーンズ(b.1949)の「交響曲第3番」だった。1996年に大阪市音楽団(オオサカ・シオン・ウインド・オーケストラ)によって初演され、当時、この作品がアマチュア団体にも演奏されるようになったばかりの頃で、とても印象に残る感動的な名曲。バーンズの交響曲作品はそれ以降、現在に至るまで9つの交響曲が存在しており、最新作の第9番はオオサカ・シオンによってこの6月に日本初演されるという。過去に第3番、第4番で名演・名盤を残しているマエストロ 秋山和慶氏がタクトをとるだけに、今回の公演も大いに注目だ。今回はこだクラで愛聴しているバーンズの交響曲に縁の深いオオサカ・シオンの交響曲音源の感想を綴っておきたい。

■バーンズ:交響曲第2番(作品44) ※ジャケット画像上段左
 木村吉宏指揮 大阪市音楽団
(1995年3月録音、大阪狭山市SAYAKAホールにて収録、TOSHIBA EMI国内盤)


アルヴァマー序曲」と同じ1981年の作曲で、バーンズが31歳の時の作品。1994年に交響曲第3番が誕生する13年前の作品だが、交響曲第3番に通じるものが既にこの頃から感じ取れる。その傾向がみられ、交響曲第2番の醍醐味となっているのが終楽章の第3楽章。ホルンとユーフォニアムによって奏でられる勇壮な主題や、楽章全体に漲るエネルギッシュな力強さは、交響曲第3番の終楽章にも共通するものがあり、個人的に第3番と共にお気に入り。
また、楽章後半にはバルトークの「管弦楽のための協奏曲」第5楽章(終曲)の要素が感じられる部分があり、「吹奏楽のための協奏曲」とでもいうべきスリリングさがある。なお、第2楽章の中間部には「O come, O come, Emmanuel」の歌詞でお馴染みのクリスマス・キャロル「久しく待ちにし主よとく来たりて」の旋律が用いられているのもユニークだ。1984年に日本初演を行った木村吉宏&大阪市音楽団による音源であることが本アルバムの価値を高めている。

■①バーンズ:交響曲第3番(作品89) ※ジャケット画像上段中
 木村吉宏指揮 大阪市音楽団
(1997年2月録音、アルカイックホールにて収録、ブレーン国内盤)
■②バーンズ:交響曲第3番(作品89) ※ジャケット画像上段右
 秋山和慶指揮 大阪市音楽団
(2010年6月12日録音、ザ・シンフォニーホールにてライヴ収録、FONTEC国内盤)


1994年の作曲でバーンズが44歳の時の作品。交響曲第3番は2つの音源が存在するが、それらはいずれも過去にエントリーしているので、感想はそちらに譲りたい。①はアルバム「ニュー・ウィンド・レパートリー1997」に収録され、前年の1996年に日本初演且つ世界初演となった木村吉宏&大阪市音楽団による音源。また、②は大阪市音楽団の第100回記念定期演奏会で、2003年より特別指揮者・芸術顧問に就任している秋山和慶氏のタクトの下で演奏された2010年のライヴ録音で、まさに記念碑的な名演。

■バーンズ:交響曲第4番
「イエローストーン・ポートレイト」(作品103) ※ジャケット画像下段右
 秋山和慶指揮 大阪市音楽団
(2002年11月8日録音、フェスティバルホールにてライヴ収録、FONTEC国内盤)


アルバム「アルプスの詩」に収録。バーンズが50代の頃の作品。「イエローストーン・ポートレイト」というサブ・タイトルが付けられており、アメリカ・ロッキー山脈の河川の一つであるイエローストーン川を中心とした大自然の風景が全編に渡って感じられる。当初は管弦楽曲だったがその後、2001年に吹奏楽用に改編されたという。第1楽章には「イエローストーン川の夜明け」、第2楽章には「カモシカのスケルツォ」、第3楽章には「インスピレーション・ポイント(塔の滝)」というそれぞれタイトルが付けられており、各々の情景が浮かんでくる。
第2楽章はタイトルからしてユニークで、ホルンの刻みやクラリネットやオーボエ、トランペットに次々と受け継がれていく旋律がカモシカの活発な動きを表現しているようで、聴いていて楽しい。また、終楽章の第3楽章はトランペットで開始されるファンファーレや後半部の木管セクションがどこかヤナーチェクの「シンフォニエッタ」に通じるものがあり、堂々と締めくくられるコーダでは壮大な景色が眼前に迫ってくるかのようだ。バーンズには「アパラチアン序曲」のようなアパラチア山脈をテーマにした作品もあり、アメリカの大自然を描くことは元々得意としていたに違いない。本アルバムは第85回定期演奏会のライヴ録音で、後の第100回定期演奏会の交響曲第3番でも名演を残した秋山和慶&大阪市音楽団の記念すべき最初のバーンズ交響曲録音。

■バーンズ:交響曲第8番(作品148) ※ジャケット画像下段左
 ジェイムズ・バーンズ指揮
 オオサカ・シオン・ウインド・オーケストラ 
(2017年5月1日録音、ロームシアター京都メインホールにてライヴ収録、FONTEC国内盤)


アルバム「マラゲニア」に収録。2015年、バーンズが66歳の時に初演された作品。何よりの話題はバーンズ本人との共演且つ作曲者本人の指揮によるライヴである点。 楽団にとっては、2015年に大阪市音楽団からオオサカ・シオン・ウインド・オーケストラに改称されて以来のバーンズ交響曲作品のレコーディングとなる。
ドイツの町(ヴァンゲン市)により委嘱を受けた作品という経緯もあるのか、第2番・第3番・第4番の交響曲とは異なる荘厳さが漂っており、バス・クラリネットのソロで開始される第1楽章からその兆候が感じられる。第2楽章では打楽器セクションの機動力が試されるバーンズのスケルツォならではの特徴が出ている。一方、第3楽章では交響曲第3番の第3楽章のような木管セクションを中心とする叙情的な美しさがあるものの、それに呼応するトランペットや、中間部に表れるユーフォニアムのソロも含め、どこか哀しさといったものが感じられる。終曲の第4楽章はトランペットとトロンボーンのファンファーレによって開始されるが、これまで聴いてきたバーンズの交響曲とはどこかスタイルの異なる終曲で、マエストーソでエンディングを迎えるコーダがそれを物語っている。この曲は委嘱したヴァンゲン市の1200周年を記念した曲となっているが、1000年を超える伝統ある歴史が作風に反映されたのかもしれない



【こだクラ過去ブログ/ジェイムズ・バーンズ作品】
(交響曲)
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