最近、鳥肌が立つ程、感動した曲に出会った。「威風堂々」でお馴染み、エルガーの「戴冠式頌歌(Coronation Ode)」という曲。この「戴冠式頌歌」には、「威風堂々」の行進曲第1番の有名なトリオと同じ旋律が使用されている。
元々、「威風堂々」はお気に入りの曲だけに、以前もマイベスト盤をエントリーしていたが、この「戴冠式頌歌」の最終曲は、「希望と栄光の国(Land Of Hope And Glory)」というタイトルで歌詞が付き、独唱+合唱付きという絢爛豪華なもの。あの有名なトリオが、まるでベートーヴェンの第9の4楽章のように、高らかに歌われおり、実に気高く、壮大なスケールに仕上がっている。
今宵は、この「戴冠式頌歌」に感銘を受けるにきっかけとなった、サー・アレキサンダー・ギブソン(1926-1995)&スコティッシュ・ナショナル管弦楽団による名盤(画像:左)で味わってみたい。
○サー・アレクサンダー・ギブソン指揮 スコティッシュ・ナショナル管弦楽団&合唱団他
('76年12月録音、Paisley Abbey、スコットランドにて収録、CHANDOS輸入盤
'97年にロンドンで聴いたザ・ラスト・ナイト・オブ・ザ・プロムスでの感動が蘇ってくる演奏。聴きながら、思わず鳥肌が立ってしまった。まずアルトの独唱によって、「希望と栄光の国」のテーマが静かに、気高く歌われる。トランペットによるファンファーレをきっかけに、トゥッティによる合唱が、「希望と栄光の国」を高らかに歌っていくシーンに移る部分は、ヴェルディの「アイーダ」大行進曲のようだ。トランペットが朗々と吹き上げる対旋律が、合唱により壮大さを添えている。合唱とオケが築き上げるクライマックスの壮大なコーダは、まるでマーラーの「千人の交響曲」の第一部の終曲を聴いているかのよう。Paisley Abbeyというスコットランドの寺院で収録されているのも、音響的な効果が加わっており、CHANDOSらしい残響豊かな音場で聴くことができる。
この自然と沸き上がる高揚感こそが、英国民だけでなく、全世界の人々に愛される原動力となっているのだと思う。この曲を聴いていると、日常生活の悩みやストレスといったものが、何かちっぽけな事のようにさえ思えてくる。
また、今回改めて感動したのは、ギブソン&スコティッシュ・ナショナル管の素晴らしさ。前回も威風堂々のマイベスト盤の一つとしてエントリー(画像:右)しているが、その豪快で筋肉質なサウンドは、まるでショルティ&シカゴ響の黄金時代を思わせるものがある。また演奏から感じる英国的な気高さにおいても、ロンドンの5大オケを凌ぐかのよう。これは1959年から1984年に渡って、四半世紀にわたり首席指揮者の地位にあったギブソンによる功績も多分にあると思う。
1984年に、ネーメ・ヤルヴィをシェフに迎えてからは更に勢いを増していくが、この70年代後期の録音においても、改めて絶頂期であった事を窺わせる。この豪快さと英国風味を兼ね備えた演奏は、翌2年後に、「威風堂々」行進曲集を録音したアルバムでも同様に感じられた。
実は、この曲、威風堂々第一番(1901年作曲)を気に入った当時の国王、エドワード7世の強いリクエストにより、翌年、彼の戴冠式に際して作曲されたもの。ここではトリオの旋律に、英国の詩人、アーサー・クリストファー・ベンソンの歌詞が付けてられている。こんな曲をエルガーから贈られたエドワード7世は幸せだ。
今でも合唱付きヴァージョンは、BBC交響楽団がザ・ラスト・ナイト・オブ・ザ・プロムスの最後に演奏される威風堂々第一番で、ロンドンっ子によって高らかに歌われている。この曲が生まれて既に100年、これからも英国では愛され続けていくことだろう。何かと不安定な今日この頃、日本でも国民が「希望と栄光」を感じられる国であってほしい。
最後に歌詞の一部をここに引用したい。
希望と栄光の国、自由の母
汝から生まれた我らはどんなふうに
汝をほめたたえられようか?
汝の領域はなおますます広くなるであろう。
汝を強力に造られた神は
汝をさらに強力にされよう。