現在公開中の映画版「のだめカンタービレ~最終楽章 前編」を観た。以前のドラマ版「のだめカンタービレ」で味わったコミカルな面白さはそのままに、海外ロケをふんだんに取り入れ、よりスケールアップした内容に仕上がっていた。劇場パンフレット(画像:左)に加え、今回、のだめ特集を取り上げた雑誌「ラヴ・クラシック」(画像:右)には実に興味深いエピソードも。さて、今回の見所は・・・!
○フルスクリーンで聴く大迫力のオケ・サウンド!
スクリーンに一杯に広がる迫力あるオケ・サウンド。まるでホールで生演奏を聴いているかのよう。演奏シーンだけでなく、BGMにクラシック音楽が多用されているのが「のだめカンタービレ」の特徴でもあるが、今回もそうだった。中でも印象的だったのは、のだめが雨の街中を歩くシーンで、バックに流れたマーラーの「交響曲第5番~第4楽章」のアダージェット。この曲は、イタリア・フランス合作の映画「ベニスに死す」に使用されたことで一躍有名になった曲でもあるが、この「のだめカンタービレ」においても映像にぴったりと映えた選曲だった。演奏は飯森範親指揮、のだめオーケストラによるもの。
○クラシックの殿堂、ウィーン、ムジークフェラインザールでの収録映像も!
「のだめカンタービレ」のテーマ曲といえる存在、ベートーヴェンの「交響曲第7番~第1楽章」は、今回、クラシックの殿堂、ムジークフェラインザールでの収録。ウィーン・フィルの本拠地であり、ニューイヤー・コンサートの中継会場としても知られた世界的に有名なコンサートホールだ。今回、前編の劇中では、冒頭でしか映像が現れなかったが、後編では、おそらくウィーンが舞台になると思われ、今夏にウィーンを訪ねた自分にとっては、今から後編の公開が待ち遠しくなるのだった(^^)
○聴き所はチャイコフスキーの大序曲「1812年」!
ドラマ版ではラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」やガーシュウィンの「ラプソディー・イン・ブルー」が聴き所だったのに対し、今回、前編でメイン扱いされたのは、チャイコフスキーの大序曲「1812年」。昔から聴き親しんだ曲ではあったが、今回の映画を通じ、改めてこの曲の持つ強いドラマ性に惹かれた。この「1812年」は原作にはない選曲だったが、監督の強い意向があっての選曲だったという。
吹き替え演奏は、大友直人氏の指揮、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団が担当。録音はEMIのアビー・ロードスタジオにて収録。ロンドン・フィルといえば、過去、すぎやまこういち指揮の「ドラゴンクエスト」のサントラ制作にも参加しているので、日本のサントラ制作に携わったのは今回で2回目ではないだろうか。実際、ロンドン・フィルの「1812年」は、1980年代にサー・アレクサンダー・ギブソンと組んだ名盤も残されているだけに、劇中で使用されたサントラも期待以上の名演だった。
劇中では、フランスのオケ(ルー・マルレ・オーケストラ)が、「1812年」を演奏するという、本来あり得ない設定(1812年にロシア軍がナポレオン率いるフランス軍に勝利した内容のため)に敢えてチャレンジした試みも面白い。雑誌「ラヴ・クラシック」では、過去に2度だけフランス国内で演奏された記録があるという興味深いエピソードも披露されている。なお、他のオケ・シーンの吹き替えは、飯森範親指揮の「のだめオーケストラ」が担当。また、映像上の配役は半数がチェコのブルノ国立フィルハーモニー管弦楽団のメンバーだという。ドラマ版でもプラハ放送交響楽団によるメンバーが出演していたが、今回も本物の外国オケメンバーが出演しているだけに、海外オケの協力なくして、映画版「のだめカンタービレ」もありえなかった。
また、千秋が指揮者だけでなく、ソリストも兼ねたバッハの「ピアノ協奏曲第1番」では、セルゲイ・エデルマンのピアノ、ズデニェク・マーツァル指揮のチェコ・フィルハーモニー管弦楽団、のだめのピアノの吹き替えでは、ラン・ランが担当したのも、映画版ならではの話題といえるだろう。日本のクラシック普及の為にも、彼らの協力に感謝したい。
○昨今のオケ事情が反映された社会映画としても・・・
千秋が首席指揮者に就任した「ルー・マルレ・オーケストラ」を取り巻く状況は、ある意味、現在のオケの実情を表しているものと感じた。昨今、国内でもオーケストラが事業仕分けの対象となっているが、オケで演奏するプレーヤーも、ある意味サラリーマン。劇中で、オケだけでは食べていけず、タクシー運転手の副業を行いながら車内で練習に励むマルレ・オケのオーボエ奏者の姿はある意味象徴的だった。
良い演奏が生まれる前提として、プレーヤーの安定した雇用や、彼らをよりよい演奏に導くための指揮者、コンサートマスターの存在は欠かせない。ただ、サラリーマンと異なるのは、芸術文化を担うアーティストという点。これからの芸術文化の発展には、なおざりにはできない問題と感じた。