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新たに年を重ねた一年の始まりにヴァイオリニスト、宮本笑里(えみり)の最新アルバム「tears」を聴く('07年9月~'08年7月録音、ソニー・ミュージック国内盤)。現在TBS系で放映中の「The 世界遺産」の新メインテーマ曲や、かつてのNHK連続テレビ小説「あすか」のテーマカバー曲が収録されているという情報を知っていたので気になっていた。昨日、タワーレコードへ入店するや否や、クラシックフロア入口に、待ってましたとばかりに宮本笑里の新譜コーナーが!少し試聴した後、ほぼ即決での購入となった(^^;

収録曲は以下の通り。

1. tears(河野伸)
2. Les enfants de la Terre~地球のこどもたち~(服部隆之)
3. カノン(パッヘルベル)
4. アヴェ・マリア(グノー)
5. 風笛(大島ミチル)
6. Fantasy for Violin and Orchestra(ナイジェル・ヘス)
7. チャールダーシュ(モンティ)
8. 霧の涙(岩代太郎)
9. Beautiful Days(妹尾武)
10. アンダンテ・カンタービレ(チャイコフスキー)
11. ジェラシー(ゲーゼ)
12. Les enfants de la Terre pour Violon et Piano(ピアノ伴奏ヴァージョン)
13. そらべあ物語(羽毛田丈史)
14. シャコンヌ(ヴィターリ)


ヴァイオリンの代表的な小品の名曲が約半数、ドラマや映画制作でもお馴染みの人気作曲家の曲が約半数収録されている。特に「風笛」といえば、NHK連続テレビ小説「あすか」のテーマ曲で、父親(元オーボエ奏者の宮本文昭氏)の名をお茶の間に拡げた大ヒット曲。「ライヴimage(イマージュ)」のステージで本人が演奏をした事も記憶に新しいだけに、娘がヴァイオリンでどう聴かせてくれるのか、関心のいくところ。従来のクラシック層だけでなく、彼女の美しいヴィジュアルと相まって、より多くの一般層にもアプローチしようという、制作側のクロスオーバー的な試みを感じる意欲作だ。

中でも自分にとって感動的だったのは、「The 世界遺産」の新メインテーマ曲となる「Les enfants de la Terre~地球のこどもたち~」だった。「 世界遺産」のメインテーマといえば、かつて鳥山雄司による「The Song Of Life」が12年近くに渡って長く使用されてきたが、この春より番組がリニューアルされたのを機に、メインテーマも新しい曲になったようだ。
実は、この曲が、自分の敬愛する服部克久氏(b.1936)の長男の、服部隆之氏(b.1965)の手による曲だというのは、このCDを通じて知った。一度聴いたら忘れられない旋律美。聴いていると、すぐに映像がオーバーラップしてくる。「The 世界遺産」のような自然紀行ものには特に欠かせない要素だ。自然紀行と言えば、父、克久氏も、やはりTBS系の番組で、かつて「新世界紀行」という名番組(1987~1992年放映)のテーマ音楽「自由の大地」を作曲していた。ストリングス中心の雄大な旋律で、当時中学生だった自分の心も、くすぶらせてくれた名曲だった。
そんな親の姿をみていた隆之氏だからこそ、だからなのか、ヴァイオリン・ソロの音色で実に優美な旋律を作り出した。スケールの大きさにおいては父、克久氏が一歩上をゆくが、旋律美においては、息子、隆之氏が一歩超えているかもしれない。自分にとってヴァイオリンによる名テーマ曲といえば、今回も収録曲に参加している岩代太郎氏の「あぐり」や、千住明氏の「ほんまもん」が思い浮かぶが、それ以来のヒット曲といえるかもしれない。

なお、ライナーノーツのクレジットから、共演しているストリングス以外の木管・金管メンバーは大部分が東京都交響楽団のメンバーのようだ。金管は東京メトロポリタン・ブラス・クインテットのメンバーが中心となっているだけに、テーマ冒頭から勇壮なサウンドを聴かせてくれている。

このアルバムには、初回限定で「Les enfants de la Terre~地球のこどもたち~」の映像クリップや、レコーディング風景を収録したDVDの特典付きに加え、ディスク自体もSACD仕様だったり、ジャケットには彼女の写真がふんだんに使用される等、これぞレコード会社の企画力ともいうべき豪華な仕上がりとなっている。
宮本笑里は世界的なコンクール歴のあるヴィルトゥーゾ・タイプのヴァイオリニストではない。しかし、それだけに伸び伸びと自分の音を表現しているし、彼女の純粋さが、プラスに働いていると思う。
まだ20代半ばだけに、これからどのようなアーティストに育っていくのかが楽しみだ。