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北欧のオーケストラが奏でる素晴らしい英国作品のアルバムに出会った。それは指揮者アンドリュー・リットンにとって2回目のレコーディングとなるホルストの組曲「惑星」の最新アルバム。初録音は彼が米国ダラス交響楽団の音楽監督(1992-2006年)在任中の1997年で、今回の2017年の新録音は20年の歳月を経てのものとなる。関心を持ったのは、共演したオーケストラが米国オケでも英国のオケでもなく、ベルゲン・フィルハーモニー管弦楽団という北欧のオケであったという点。北欧のオケというと、ヘルシンキ・フィル(フィンランド)やオスロ・フィル(ノルウェー)、デンマーク国立放送交響楽団(デンマーク)等の名が浮かぶが、ベルゲン・フィルはノルウェーの首都オスロに次ぐ第二の街ベルゲンに、1765年に創立。「ペール・ギュント」で有名なエドヴァルド・グリーグもベルゲンの出身で、彼自身、1880-1882年にベルゲン・フィルの音楽監督を務めており、ベルゲン・フィルの本拠地「グリーグホール」はグリーグの名前に由来するという由緒あるオーケストラだ。
リットンは2003-2015年にベルゲン・フィルの音楽監督を務め、在任中に数多くのレコーディングを行ってきたが、今回、英国の人気作曲家、ホルストとエルガーの2大作品を収めた最新アルバムのリリースに至った。まずは新旧のアルバムのクレジットを記しておきたい。

■ホルスト:組曲「惑星」
①アンドリュー・リットン指揮 ダラス交響楽団
 (1997年録音、McDerrmott Hall Meyerson Center、ダラスにて収録、DELOS海外盤、ジャケット画像右)
②アンドリュー・リットン指揮 ベルゲン・フィルハーモニー管弦楽団
 (2017年2月録音、グリーグホール、ベルゲンにて収録、BIS海外盤、ジャケット画像左)


新録音のベルゲン・フィル盤はオーケストラの機動力が存分に発揮されたスケールの大きな名演。リットンの解釈はダラス響盤と基本的には変わっておらず、有名な「火星」、「木星」、「天王星」いずれも素晴らしい出来だが、個人的な注目はやはり「木星」中間部のアンダンテ・マエストーソ。元々、ダラス響盤でのリットンの解釈に一目を置いていたが、今回のベルゲン・フィル盤もそれは踏襲されている。その解釈とは、mf(メゾ・フォルテ)で開始される中間部の旋律の繰り返し時に一度、ダイナミクスをp(ピアノ)に下げる部分。通常だとmfを維持したまま演奏されるので、ここでpの処理は一瞬意外に思うところ。しかし、ここから徐々にクレッシェンドをかけながら、f(フォルテ)に向かって奏でられることで、結果的にこの中間部が持つ威厳さや敬虔さがより際立つ効果があるように感じた。リットン以外の音源では出会うことがなかったので、ダラス響盤に続き、今回の新録音でも印象に残った。

また、本アルバムのカップリング曲はエルガーの人気作品である「エニグマ変奏曲」(ダラス響盤のカップリングはR.シュトラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」)。こちらも素晴らしく、また別の機会に感想を綴りたいが、一枚のアルバムで英国の人気作曲家による二大作品が堪能できるのが嬉しい。BISレーベルの高品質な録音も特筆すべきもの。本アルバムのケースにはプラスチックを使用しないエコパック仕様となっているところにも時代の変化を感じる。
何より、北欧のオーケストラがこれほどまでに英国の気風の漂う洗練されたサウンドを奏でたことに驚きを覚えると共に、リットンの手腕を改めて実感。夏の猛暑を乗り切るアルバムとしてもぴったりだ。

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