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先週末は五月晴れのいい天気。そんな休日に、最近気になっている曲を聴いた。現在キリン「生茶」のCMでも話題のチック・コリアの「スペイン」。これを本人のピアノ、スティーヴン・メルクリオ指揮のロンドン・フィルハーモニー管弦楽団との共演による一枚を('99年4月録音、ハムステッドにて収録、ソニー・クラシカル国内盤)。

CMは原曲でなく、ストリングス主体のCMオリジナル・ヴァージョンに編曲されているようだ。このロンドン・フィル共演盤も興味深く、“セクステットとオーケストラの為の”という編成で仕上げられている。正式にはチック・コリアが率いるセクステット編成(ピアノ、ベース、ドラムス、トロンボーン、サックス×2)のオリジンというバンドとオーケストラとの共演という形だ。

約23分の長さのこの曲は3部構成になっており、有名なスペインのテーマは2部に登場する。セクステット部分だけのアドリブもあれば、オケとの掛け合い部分もある。ジャズ・バンドとオケがコラボする姿は最近では、小沢征爾がマーカス・ロバーツトリオ&サイトウ・キネン・オーケストラを指揮して共演したガーシュインのアルバムが記憶に新しい。

ここではスタジオ録音の為、燃焼度はライブ程には追いつかないように感じるものの、オリジンのメンバーとの息の良さは録音からも伝わってくる。ロンドン・フィルもここではジャズ・バンドの一員になりきってチック・コリアとの共演を楽しんだことだろう。

カップリングには自作のピアノ協奏曲第一番が収録されている。“宗教の自由の精神に捧げる”との副題がついているが、彼がモーツァルトのピアノ協奏曲に影響を受けて作曲した曲だという。実際、チック・コリアは当時ジャズに傾倒していたフリードリヒ・グルダとの親交の中でモーツァルトの奥深さに目覚め、いつかは自作のピアノ協奏曲を作りたいという構想があったようだ。グルダとの親交はその後、ニコラウス・アーノンクール指揮のアムステルダム・コンセルへボウ管弦楽団との共演でモーツァルトの「2台のピアノのための協奏曲」のアルバムへと結実する。
古楽の大家、アーノンクールがジャズピアニストとの接点があったという意外性(!)という意味でも貴重な録音だ。

この曲は「スペイン」とは違うノリの良さがある、ベースとドラムが加わっている事が歯切れの良さを生んでいるのか、それともここではチック・コリアが弾き振りをしている事がエネルギーに反映されたのだろうか。途中、モーツァルトを感じさせるアドリブが入る辺り、彼の傾倒ぶりが伺える。

このアルバムの曲構成が、ガーシュインのヒット曲、「ラプソディ・イン・ブルー」と「ピアノ協奏曲へ調」との関係を連想させるあたり、彼は現代のガーシュインも意識しているのかも?
ジャズとクラシックの融合を図るクロスオーバーなジャズ・ピアニストには、他にもドミニカ出身のミシェル・カミロや我が日本の誇る小曽根 真氏らがいる。彼らの今後の活躍にも注目したい。

「スペイン」が作曲されたのは'71年。36年経った今でも様々な形で進化しつづけている。素晴らしい名曲だ。