N響創立90周年シリーズの一環として、山本直純氏(1932-2002)とNHK交響楽団による「スター・ウォーズ」が収録された音源が発売された(アルバム「山本直純・青少年のための管弦楽入門」キング・インターナショナル国内盤)。録音は1989年7月31日のNHKホールでのライヴ。白熱の演奏に一聴して感動、スター・ウォーズファンならマストアイテムにしておきたい一枚だ。「NHK交響楽団がボストン・ポップスを超えた」と記載されたジャケット帯のキャッチコピーも、実に的を得た表現だと思った。
今でこそ、オケによる映画音楽や吹奏楽曲の演奏は一般的な風景になったが、山本直純氏といえば当時のポップス・オケ界では、なくてはならない先駆者的な存在だった。自分にとっても、彼の実演に初めて接したのが1987年にサントリーホールで聴いた東京都交響楽団とのファミリーコンサートだったから、今もって懐かしい。
彼自身、作曲家でもあり、「男はつらいよ」やNHK大河ドラマの「武田信玄」(1988年作品)のような劇伴音楽も数多く手掛けていたからこそ、スター・ウォーズのような洋画の人気作品を演目にすることは自然な流れだった。
ここではN響が普段のイメージを取り払い、エンターテイメントに徹した姿が伺えるのが嬉しい。以下、この音源の聴きどころを綴っておきたい。
・聴きどころその1。スター・ウォーズ演奏の要となるブラスがまず素晴らしい。特にトランペットがパワフルでマッチョ。当時は北村源三氏や祖堅方正氏、津堅直弘氏、関山幸弘氏を始めとするスター・プレイヤーが在籍。当時の日本が誇る最強のトランペットセクションによるスター・ウォーズといっても過言ではないだろう。
・聴きどころその2。スター・ウォーズが有名な「メイン・タイトル」だけでなく、「スター・ウォーズ組曲」として全6曲の組曲中、「レイア姫のテーマ」と「王座の間/エンド・タイトル」の3曲が演奏されている点。中でも「王座の間/エンド・タイトル」は、これまでも日本のオケによるセッション音源は存在しているが、ここでは威風堂々且つゴージャスに演奏されており、ジョン・ウィリアムズ本人がもし実演に接していたら感銘を受けたことだろう。
スター・ウォーズ組曲の名盤といえばズービン・メータ&ロサンゼルス・フィルを真っ先に思い浮かべるが、彼らの音源と比較してもいい勝負だ。
山本直純のタクトは場面転換をうまく描き分けており、テンポ運びも抜群。貴重なドキュメンタリーが登場したことに感謝したい。