2023年5月6日、英国のウェストミンスター寺院で行われたチャールズ3世新国王とカミラ王妃の戴冠式が行われた。当日の様子はテレビ中継やYou Tube等を通じて生配信されていたが、個人的に最も胸が高鳴ったのはパトリック・ドイルがこの日の為に作曲した「チャールズ3世国王戴冠式行進曲」が披露された事だった。
パトリック・ドイルといえば映画「シンデレラ」や「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」のサントラでお馴染みの作曲家。過去本ブログでもエントリーしているが、主に映画音楽のフィールドで活躍する作曲家が戴冠式の音楽を手掛けたこと、そして(これが最も重要な事だが)彼の持ち味が見事に生かされた戴冠式行進曲に仕上がっていたことが何より嬉しかった。個人的な聴きどころは中間部のテーマで、映画「シンデレラ」を想起させるような気品に満ちた旋律に親近感と感動を覚えた。
戴冠式行進曲といえば「クラウン・インペリアル」や「宝冠と王の杖(Orb and Sceptre)」といったウォルトンの作品が有名だが、振り返ればウォルトンも映画音楽との接点が多く、例えば「スピットファイア」のような作品もそんな一つ。今回、パトリック・ドイルとウォルトンは各々映画音楽と英国王室の戴冠式行進曲を手掛けた作曲家という共通点を持つことになった。
戴冠式でオーケストラの指揮をしたのは2023年9月よりロンドン交響楽団の首席指揮者に就任するアントニオ・パッパーノ。そしてオケは英国とカナダの主要な8つのオーケストラからの選ばれたメンバーによるコロネーション・オーケストラ(The Coronation Orchestra)。中継を観ると、フィルハーモニア管弦楽団の首席奏者で、2017年の来日公演で実演に接した、ジェイソン・エヴァンスが参加しており、彼がリードするトランペット・セクションの巧みなサウンドが聴けたのも嬉しかった。
そんな心を躍らせてくれた戴冠式行進曲が収められたオフィシャル・アルバムがDECCAレーベルより6月6日にリリースされたので即購入。ちなみに今回の戴冠式はパトリック・ドイル だけでなく、ミュージカルでお馴染みアンドリュー・ロイド・ウェバーによる戴冠式アンセム「Make a Joyful Noise」や、映画音楽、吹奏楽の世界でもお馴染みのナイジェル・ヘスが他の2名の作曲家と共に「Be Thou my Vision-Triptych for Orchestra」という作品を手掛けていたのも話題の一つ。純クラシック以外のフィールドで活躍する作曲家が戴冠式の音楽を手掛けたのはまさに現代のトレンドが反映された音楽として感慨深いし、トラディショナルとモダンが共存する英国らしい戴冠式になったと思う。
偶然だが、チャールズ3世の即位時の年齢は74歳、パトリック・ドイルは70歳、アンドリュー・ロイド・ウェバーは75歳、ナイジェル・ヘスは69歳であり、世代的にも近いという共通点もあった。
また、2011年のウィリアム王子のロイヤル・ウェディングの際に新曲「This is the day」を披露したジョン・ラターは今回はオリジナル曲の演奏こそなかったものの、編曲者として名を連ねていた。そんな彼も77歳となり、チャールズ3世とは同世代にあたる。
なお、CD2枚組の本アルバム収録曲の中で他に印象に残った曲名を備忘録として以下に挙げておきたい。戴冠式で演奏された作品という枠を超え、純粋に音楽として楽しめる、まさに玉手箱のような珠玉の名曲を今後も愛聴していきたい。
(CD1より)
・R.シュトラウス:「ウィーン・フィルハーモニーのためのファンファーレ」
チャールズ3世が王冠を授かった時に演奏された曲。これにはウィーン・フィルも驚いたのでは!
・デビー・ワイズマン:「O Clap Your Hands」「O Sing Praises」
ワイズマンもパトリック・ドイルやナイジェル・ヘスと同様、映画音楽の世界で活躍する作曲家で、以前エントリーしたロイヤル・フィルによる「FILMHARMONIC」という映画音楽アルバムに収録された「ARSENE LUPIN(ルパン) Overture」と「THE TRUTH ABOUT LOVE Suite」では作曲者&指揮者として名を連ねていたことを今更ながらに知った。「O Sing Praises」はゴスペルクワイアだが、ゴスペルクワイアといえば2018年のヘンリー王子のロイヤル・ウェディングで歌い上げた「スタンド・バイ・ミー」を思い出す。
(CD2より)
・GOSS:「Praise My Soul, The King Of Heaven」
手持ちのケンブリッジ・キングズ・カレッジ合唱団のアルバムに収録されていて、以前より聴き馴染みのある曲。リアルな式典で歌われたこともあり、より心に響くものがあった。
・パリー:「アリストパネスの「鳥」からの組曲』より「結婚行進曲」
2011年4月にウィリアム王子とキャサリン姫とのロイヤル・ウェディングを記念してリリースされたオフィシャルアルバムにも収録されていた曲。
・ウィリアム・バード:「オックスフォード伯爵の行進曲」
フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルのレパートリーとしてもお馴染み。
・カール・ジェンキンス:「Crossing The Stone/Tros Y Garreg」
カール・ジェンキンスといえばアディエマスのアルバムでお馴染み。ハープとストリングスによるどこか物悲しげな旋律が印象的。
・CLASS:「Sacred Fire」
南アフリカのソプラノ歌手、プリティ・イェンデによる歌唱。
・FARRINGTON:「Voices Of The World」
パイプ・オルガンの独奏曲。戴冠式の厳かさとは正反対のユニークな曲。
この他、本アルバムには収録されなかったが、コロネーション・オーケストラが演奏したホルストの「木星」や、戴冠式の冒頭でジョン・エリオット・ガーディナー&イングリッシュ・バロック・ソロイスツ&モンテヴェルディ合唱団による祝祭と生命力に満ちたバッハとブルックナーの演奏(※)が素晴らしかったことも特筆しておきたい。
(※演奏曲)
1. バッハ:「マニフィカト」よりMagnificat anima mea
2. バッハ:「クリスマス・オラトリオ」より合唱「栄光あれと、神よ、汝に歌わん」(Ehre sei dir, Gott, gesungen)
3. バッハ:カンタータ BWV 190「主に向かって新しき歌をうたえ」(Singet dem Herrn ein neues Lied)
4. ブルックナー:モテット「見よ、大いなる司祭を WAB 13」(Ecce sacerdos magnus)
【こだクラ過去ブログ/英国ロイヤルセレモニー関連】
■英国音楽の魅力再発見!ウィリアム・ボイス:交響曲集~ロイヤル・ウェディング選①
■英国音楽の魅力再発見!チャールズ・ヒューバート・パリーの「結婚行進曲」~ロイヤル・ウェディング選②
■英国音楽の魅力再発見!ジョン・ラターの声楽曲(アンセム)~ロイヤル・ウェディング選③
パトリック・ドイルといえば映画「シンデレラ」や「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」のサントラでお馴染みの作曲家。過去本ブログでもエントリーしているが、主に映画音楽のフィールドで活躍する作曲家が戴冠式の音楽を手掛けたこと、そして(これが最も重要な事だが)彼の持ち味が見事に生かされた戴冠式行進曲に仕上がっていたことが何より嬉しかった。個人的な聴きどころは中間部のテーマで、映画「シンデレラ」を想起させるような気品に満ちた旋律に親近感と感動を覚えた。
戴冠式行進曲といえば「クラウン・インペリアル」や「宝冠と王の杖(Orb and Sceptre)」といったウォルトンの作品が有名だが、振り返ればウォルトンも映画音楽との接点が多く、例えば「スピットファイア」のような作品もそんな一つ。今回、パトリック・ドイルとウォルトンは各々映画音楽と英国王室の戴冠式行進曲を手掛けた作曲家という共通点を持つことになった。
戴冠式でオーケストラの指揮をしたのは2023年9月よりロンドン交響楽団の首席指揮者に就任するアントニオ・パッパーノ。そしてオケは英国とカナダの主要な8つのオーケストラからの選ばれたメンバーによるコロネーション・オーケストラ(The Coronation Orchestra)。中継を観ると、フィルハーモニア管弦楽団の首席奏者で、2017年の来日公演で実演に接した、ジェイソン・エヴァンスが参加しており、彼がリードするトランペット・セクションの巧みなサウンドが聴けたのも嬉しかった。
そんな心を躍らせてくれた戴冠式行進曲が収められたオフィシャル・アルバムがDECCAレーベルより6月6日にリリースされたので即購入。ちなみに今回の戴冠式はパトリック・ドイル だけでなく、ミュージカルでお馴染みアンドリュー・ロイド・ウェバーによる戴冠式アンセム「Make a Joyful Noise」や、映画音楽、吹奏楽の世界でもお馴染みのナイジェル・ヘスが他の2名の作曲家と共に「Be Thou my Vision-Triptych for Orchestra」という作品を手掛けていたのも話題の一つ。純クラシック以外のフィールドで活躍する作曲家が戴冠式の音楽を手掛けたのはまさに現代のトレンドが反映された音楽として感慨深いし、トラディショナルとモダンが共存する英国らしい戴冠式になったと思う。
偶然だが、チャールズ3世の即位時の年齢は74歳、パトリック・ドイルは70歳、アンドリュー・ロイド・ウェバーは75歳、ナイジェル・ヘスは69歳であり、世代的にも近いという共通点もあった。
また、2011年のウィリアム王子のロイヤル・ウェディングの際に新曲「This is the day」を披露したジョン・ラターは今回はオリジナル曲の演奏こそなかったものの、編曲者として名を連ねていた。そんな彼も77歳となり、チャールズ3世とは同世代にあたる。
なお、CD2枚組の本アルバム収録曲の中で他に印象に残った曲名を備忘録として以下に挙げておきたい。戴冠式で演奏された作品という枠を超え、純粋に音楽として楽しめる、まさに玉手箱のような珠玉の名曲を今後も愛聴していきたい。
(CD1より)
・R.シュトラウス:「ウィーン・フィルハーモニーのためのファンファーレ」
チャールズ3世が王冠を授かった時に演奏された曲。これにはウィーン・フィルも驚いたのでは!
・デビー・ワイズマン:「O Clap Your Hands」「O Sing Praises」
ワイズマンもパトリック・ドイルやナイジェル・ヘスと同様、映画音楽の世界で活躍する作曲家で、以前エントリーしたロイヤル・フィルによる「FILMHARMONIC」という映画音楽アルバムに収録された「ARSENE LUPIN(ルパン) Overture」と「THE TRUTH ABOUT LOVE Suite」では作曲者&指揮者として名を連ねていたことを今更ながらに知った。「O Sing Praises」はゴスペルクワイアだが、ゴスペルクワイアといえば2018年のヘンリー王子のロイヤル・ウェディングで歌い上げた「スタンド・バイ・ミー」を思い出す。
(CD2より)
・GOSS:「Praise My Soul, The King Of Heaven」
手持ちのケンブリッジ・キングズ・カレッジ合唱団のアルバムに収録されていて、以前より聴き馴染みのある曲。リアルな式典で歌われたこともあり、より心に響くものがあった。
・パリー:「アリストパネスの「鳥」からの組曲』より「結婚行進曲」
2011年4月にウィリアム王子とキャサリン姫とのロイヤル・ウェディングを記念してリリースされたオフィシャルアルバムにも収録されていた曲。
・ウィリアム・バード:「オックスフォード伯爵の行進曲」
フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルのレパートリーとしてもお馴染み。
・カール・ジェンキンス:「Crossing The Stone/Tros Y Garreg」
カール・ジェンキンスといえばアディエマスのアルバムでお馴染み。ハープとストリングスによるどこか物悲しげな旋律が印象的。
・CLASS:「Sacred Fire」
南アフリカのソプラノ歌手、プリティ・イェンデによる歌唱。
・FARRINGTON:「Voices Of The World」
パイプ・オルガンの独奏曲。戴冠式の厳かさとは正反対のユニークな曲。
この他、本アルバムには収録されなかったが、コロネーション・オーケストラが演奏したホルストの「木星」や、戴冠式の冒頭でジョン・エリオット・ガーディナー&イングリッシュ・バロック・ソロイスツ&モンテヴェルディ合唱団による祝祭と生命力に満ちたバッハとブルックナーの演奏(※)が素晴らしかったことも特筆しておきたい。
(※演奏曲)
1. バッハ:「マニフィカト」よりMagnificat anima mea
2. バッハ:「クリスマス・オラトリオ」より合唱「栄光あれと、神よ、汝に歌わん」(Ehre sei dir, Gott, gesungen)
3. バッハ:カンタータ BWV 190「主に向かって新しき歌をうたえ」(Singet dem Herrn ein neues Lied)
4. ブルックナー:モテット「見よ、大いなる司祭を WAB 13」(Ecce sacerdos magnus)
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