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オーケストラが奏でる作品で、絢爛豪華な行進曲というと、英国の作曲家、サー・エドワード・エルガー(1857-1934)の「威風堂々」第一番(1901年作曲)がまず真っ先に思い浮かぶが、同じ英国で「威風堂々」と並ぶ作品に、サー・ウィリアム・ウォルトン(1902-1983)の「クラウン・インペリアル」と「宝冠と王の杖」がある。両曲ともエルガーの「威風堂々」と同様、前後半のグランドマーチと、トリオ(中間部)の美しい旋律から成っており、“オーケストラってかっこいい!”と感じられるスペクタキュラーな作品。
元々、「クラウン・インペリアル」は1937年のジョージ6世の戴冠式用に、また、「宝冠と王の杖」は1953年のエリザベス2世の戴冠式用にそれぞれ作曲された作品だけに、より祝典的な華やかさと、英国の紳士的な気高さが感じられる。特にファンファーレ的な華やかさがコーダまで持続する金管楽器には、高度なテクニカルが要求されているように思う。
その作風は、まるで映画『スター・ウォーズ』の「メインテーマ」や「王座の間とエンド・タイトル」に通じるものがある。中でも「王座の間とエンド・タイトル」は実際に戴冠の場面を描いた曲だけに尚更だ。映画音楽の巨匠、ジョン・ウィリアムズも、もしかしたら参考にしていたかもしれない。
これまで色々なディスクで聴いてきたが、自分にとっての不動のマイベスト盤は以下のアーティストによるもの。

サー・ウィリアム・ウォルトン:
○「クラウン・インペリアル」
○「宝冠と王の杖」

サー・デイヴィッド・ウィルコックス指揮 フィルハーモニア管弦楽団
(1991年4月録音、ブラックヒース・コンサート・ホールにて収録、CHANDOS輸入盤)


フィルハーモニア管弦楽団が好きになるきっかけにもなった一枚。
これぞ英国風、といえるもので、オケに求められる作品への柔軟性や、テクニカル面での機動性といったものが見事に発揮されている。特にトランペットセクションは、ハイトーンへの跳躍が何ヶ所もあり、相当な難易度を求められるが、いずれも完璧な吹奏。このアルバムでは、「宝冠と王の杖」の冒頭、「アニバーサリー・ファンファーレ」と名付けられた約45秒のファンファーレ(9つのトランペット+7つのトロンボーン+打楽器)によって導かれるが、このファンファーレがまた壮麗でかっこいい。実はこのファンファーレは、「宝冠と王の杖」の作曲時に作られたものではなく、英国大手のレーベルEMIの、75周年(1973年)を迎えた記念コンサートの為に作曲されたもの。そのファンファーレを、「宝冠と王の杖」に導くためのファンファーレとしても活用できるようにしたのは、実にウォルトンらしいアイデアだ。首席トランペット奏者、ジョン・ウォーレス在任時の録音だけに、実に素晴らしい。

また、ここでの名演は、名指揮者サー・デイヴィッド・ウィルコックス(1919)の力による所も大きいだろう。名門、ケンブリッジ・キングス・カレッジ合唱団やバッハ合唱団の指揮を長年務めた人でもあるが、彼のテンポの運び方が実に推進力に富んでいたからだ。合唱指揮者でもあるだけに、フレージングの処理に長けているからなのかもしれない。昨年惜しくも亡くなったリチャード・ヒコックス(1948-2008)もそんな一人だった。ホールの豊かな残響が、実際のウェストミンスター・アベイでの戴冠式を彷彿とさせ、壮麗さが際立った優秀録音に仕上がっている。

この曲を知るきっかけは、自分が高校生だった当時に観ていたNHKの23時のニュースのオープニングで流れるBGMだった。NHKに問い合わせたら、曲名は「クラウン・インペリアル」で、演奏はアンドレ・プレヴィン&ロイヤル・フィル盤のものと教えてくれた。すぐに買い求めたが、もっと名演を…と探し求めた結果が本盤だった。

この曲は、自分にとっての“戴冠式”的な意味合いを持つ曲でもある。大学入学時、下宿先に向かうために実家を旅立つ朝に聴いたのがこの曲だった。また、現在使用しているQUADスピーカーの先代のDENONスピーカーの購入の際に、オーディオチェック用として使用したのもこの曲。パワーを与えてくれるこれらの2曲は今でも通勤時には欠かせないアイテムとなっている。
100人近くのプレーヤーが創り上げるゴージャスなフル・サウンドに浸れる喜び。それこそ、オーケストラならでは醍醐味といえるだろう。