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2011年も押し迫ってきた。昨年はショパンシューマンの生誕200年で賑わったが、今年はフランツ・リスト(1811-1886)の生誕200年のアニバーサリーイヤーでもあった。
リストといえば、かつてアリス=紗良・オットの公演や、リストの故郷であるハンガリーを訪ねた事が記憶に新しい。リストの代名詞にもなっている名曲「愛の夢」は既にエントリーしている事もあり、今回はリストのヴィルトゥオーゾな一面をたっぷりと堪能できる「メフィスト・ワルツ第1番」をエントリーしたい。元々ピアノ曲だと思っていたが、実は1856~1861年頃にかけて管弦楽曲として作曲した後に、本人がピアノ独奏用として編曲しており、正式には、『レーナウの「ファウスト」による2つのエピソードより第2曲:村の居酒屋での踊り』という長いタイトルがついている。特にピアノ独奏版は、リストならではの超絶技巧を存分に発揮した曲に仕上がっている。ここではピアノ版と、オケ版の聴き比べと共に、ピアノ版では各々のピアノの音色にも注目したい。(ジャケット画像:左上より時計回り)

【ピアノ版】
■スティーヴン・ハフ
 旧盤 (1987年8月録音、ヘンリーウッドホール、ロンドンにて収録、Virgin Classics海外盤)
 新盤 (2008年7月録音、ヘンリーウッドホール、ロンドンにて収録、Hyperion海外盤)


以前、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番でもエントリーしたハフ(b.1961)によるもので、旧盤、新盤の2種類の音源による聴き比べを。旧盤は、全編に渡り、テクニカルとスマートさをバランスよく併せ持ったハフらしい演奏となっている。
一方、新盤は、前回のレコーディングから約20年経過した再レコーディングとなる音源。まず驚いたのは、導入部を含め前半部のテンポが旧盤よりぐっと遅くなり、演奏時間がトータルで30秒近くも伸びた点。20年の間に解釈の変化が起こったのだろう。しかしながら後半部から一気にテンポアップし、ハフ本来のテクニカルな一面を味わう事ができる。なお、ピアノはスタインウェイを使用。

■デニス・マツーエフ
 (1998年12月録音、ラジオモスクワ第3スタジオにて収録、Sacrambow国内盤)


1998年に開催された第11回チャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門で優勝したマツーエフ(b.1975)によるコンクール直後の凱旋レコーディング。使用ピアノはヤマハで、コンクール本選で使用して良い状態でもあったのだろう、とてもよく鳴っている。実にアグレッシブで、緊張感が高く、リストらしい男性的な力強さが前に出た演奏となっている。

■ホルへ・ボレット
 (1982年録音、キングズウェイホール、ロンドンにて収録、DECCA海外盤)


ボレット(1914-1990)は、上記の2名のようなスピード感のあるテンポでテクニカル面を前面に出すタイプでなく、どっしりと構えながら、芯のある音を一音一音紡ぎ出すというタイプ。曲全体の構造をつかみながら演奏を進めていく辺りも、リスト作品を得意としていたボレットならでは。ここではボレット愛用のべヒシュタインを使用。くっきりとしたブリリアントな音色もリスト向き。

【オケ版】
■ゲオルグ・ショルティ指揮 シカゴ交響楽団
 (1993年11月録音、オーケストラホール、シカゴにて収録、DECCA国内盤)


オケ版によるメフィスト・ワルツ第1番。ショルティ(1912-1997)の故郷でもあるハンガリーの作曲家の曲ばかりを収めたアルバム「ハンガリアン・コネクション」の中の一曲。ライヴ・アルバムというのも貴重。導入部がヴァイオリンで奏でられるのを聴くと、元は管弦楽曲だった事が納得できる。リストはピアノだけでなく、オーケストレーションにも長けた作曲家だった事が、改めて窺える。