今宵は若手アーティストが演奏した期待の演奏を。
ウィーン出身の若手女性ピアノ・トリオ、「トリオ・ヴィエナルテ」によるハイドンのピアノ三重奏曲。ハイドンの気品漂うピアノ・トリオに新鮮な感動を受けた一枚(2000年4月録音、ゼンダー・フライス・ベルリン、スタジオⅢにて収録、カンパネラ・ムジカ輸入盤)。
メンバーは、ヴェロニカ・シュルツ(ヴァイオリン)、ジュリア・シュライフォーゲル(チェロ)、マリア・ロム(ピアノ)。ちなみにヴァイオリンのヴェロニカ・シュルツはウィーン・フィルの首席フルート奏者、ヴォルフガング・シュルツの娘だという。いずれも70年代の生まれで自分とまさに同世代、今更ながら時代は変わったなと感じさせる(^^;
曲目は以下の通り。
①ピアノ三重奏曲 ハ長調 Hob.XV:27
②ピアノ三重奏曲 ホ長調 Hob.XV:28
③ピアノ三重奏曲 変ホ長調 Hob.XV:29
①の1楽章冒頭からコロコロと子犬が駆け回るようなピアノの旋律が何とも愛くるしい。3曲全てが長調の作品である事もあってか、明るさの中にハイドンならではのセンスと気品が漂う。
ジャケットの解説によると、この作品は1795年、当時63歳のハイドンがテレーゼ・ジャンセン=バルトロッツィという20代のピアニストの女性に献呈した曲だという。折りしもこの1795年に彼女は結婚をしており、ハイドン自身が立会人を務めた程の親密ぶりからすると、この3曲はハイドンからのお祝いとも推測されているらしい。
確かに華やかさに満ち、祝祭的な雰囲気も持ちあわせており、結婚式等のBGMにも合いそうだ。
18世紀末、ピアノ・トリオは人気があったジャンルのようでパリやロンドン、ウィーンでもよく演奏されていた。当時はまだ家庭で演奏される室内楽という位置付けだったようだが、それはシンプルな楽器編成からも伺える。ハイドンに限らず、当時のピアノ・トリオの多くが女性に献呈され、少なくともピアノパートは女性によって演奏される事が多かったという社会的背景も興味深い。
なお、「カンパネラ・ムジカ」はベルリン・フィルの首席オーボエ奏者、ハンスイェルク・シェレンベルガーによって'88年に創設されたレーベルだという。彼自身もバッハやブリテン等のアルバムに名を連ねているが、彼女達のような若手アーティストのプロデュースにも積極的な心意気を感じる。新興レーベルで若手アーティストの起用に積極的なレーベルに、フランスのジャン=ポール・コンベが主宰する「Alpha(アルファ)」や、「熱狂の日」でお馴染みルネ・マルタンが主宰する「MIRARE」等がある。いずれも自分にとってお気に入りのレーベルだ。
このピアノ・トリオと当時の背景を知る事で、それまで“交響曲の父”のイメージの強かったハイドンの新たな一面を知る事ができた。