これまでに、ドイツ・オーストリアオケ編、英国オケ編と続いてきたが、今回は英国オケ編の続編として、「英国・室内オケ編」を。英国は室内オケが数多く活動しているだけに、モツレクのディスクも数多い。モーツァルト作品には、室内オケの規模感に見合った作品が多い事や、合唱が盛んな国でもあるので、このような声楽曲の録音も多いのだろう。実際、所有枚数を調べた所、英国の室内オケによるモツレクが一番多い事に気付かされた。追悼の意味合いを含め、この機会にじっくりと耳を傾けてみたい。(ジャケット画像:左上より時計回り)
○サー・チャールズ・マッケラス指揮 スコットランド室内管弦楽団&合唱団
スーザン・グリットン(ソプラノ)
キャスリーン=ウィン・ロジャース(メゾ・ソプラノ)
ティモシー・ロビンソン(テノール)
ピーター・ローズ(バス)
(2002年12月録音、ダンディー、ケアード・ホール、スコットランドにて収録、LINN RECORDS海外盤)
2010年に亡くなった巨匠マッケラスが、スコットランドの老舗オーディオブランドのLINNレーベルに残した貴重な録音。数多いモツレクの中で、一般的によく知られるじジェスマイヤー版ではなく、最新の時代考証に基づいたロバート・レヴィン(b.1947)版を採用しているのが特徴。古楽器的なアプローチにより、モダン楽器のオケながら当時の演奏様式に近づけた事が、結果として新鮮味を与えてくれる。学術的な志向に加え、オケ、合唱共に扱いの慣れたマッケラスならではセンスだと思う。個人的には合唱が小規模ゆえか、やや力み過ぎた感が否めない場面もあった。
○ジェーン・グラヴァー指揮 ロンドン・モーツァルト・プレイヤーズ
ジュディス・ハウォース(ソプラノ)
ダイアナ・モンタギュー(メゾ・ソプラノ)
モルドウィン・デイヴィス(テノール)
スティーヴン・ロバーツ(バス)
BBCシンガーズ
(1990年録音、ブラックヒース・コンサート・ホール、ロンドンにて収録、ASV国内盤)
今回エントリーした室内オケのディスクの中で、マイベスト盤となったディスク。女性指揮者のジェーン・グラヴァー(b.1949)の巧みなコントロールの成果なのだろう、壮麗さと雄弁さを兼ね備え、作品の核心に迫ろうとする意気込みを感じる演奏。ロンドン・モーツァルト・プレイヤーズは、以前、シェリーの弾き振りよるピアノ協奏曲でもエントリーしたが、モーツァルト作品に手慣れたオケだけに、バランス感覚にも実に長けている。
また、BBBシンガーズが実に素晴らしく、今回エントリーしたモツレクの中では、デイヴィス&バイエルン放送響と並ぶハイレベルな合唱を聴かせてくれる。ホールの残響も効いており、室内オケによる理想的な名演といえるだろう。
○マリナー&アカデミー室内管による新盤・旧盤
【旧盤】
イレアーナ・コトルバス(ソプラノ)
ヘレン・ワッツ(アルト)
ロバート・ティアー(テノール)
ジョン・シャーリー=カーク(バス)、
アカデミー&コーラス・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ
(1977年録音、キングズウェイ・ホール、ロンドンにて収録、DECCA海外盤)
【新盤】
シルヴィア・マクナイア(ソプラノ)
キャロライン・ワトキンソン(コントラルト)
フランシスコ・アライザ(テノール)
ロバート・ロイド(バス)
アカデミー&コーラス・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ
(1990年2月録音、PHLIPS海外盤)
旧盤は、以前エントリーしたヘンデルの「メサイア」と同時期の録音。フレッシュさが伝わり、トランペット効かせたアクセント等、古楽器的なアプローチも感じさせる。他のディスクに比べ、合唱がややか細さを感じるのは否めない。
一方、新盤は1984年に公開された映画「アマデウス」で、マリナー&アカデミーによるサントラが一躍話題になって以降の録音で、財力も増したのだろうか、オケ、合唱共に規模感も一段と増し、当時66歳のマリナーとして、理想のモツレクを追求しようとする姿勢が窺える。旧盤はバイヤー版に対し、新盤はジェスマイヤー版を使用しており、古典に回帰している点にも注目。ちなみに、合唱指揮は、1975年にアカデミーの合唱団の創設に携わり、1999年までの約四半世紀に渡り、合唱指揮者を務めたラースロー・ヘルタイが、旧盤・新盤共に担当している。
旧盤で印象的だった鋭角さがなくなり、丸みのある演奏。世間的には幅広く受け入れられるモツレクであると思うが、個人的には、各々の楽曲がさらさらと流れて聴き応えはあるものの、モーツァルトがレクイエムに込めた情感というものは心に今一つ響いてこなかった。