F4EAD27C-96DD-4A8B-8F34-FCE1C195680A.jpeg2020年6月、服部克久さんの訃報が入った。享年83歳。自分にとっては、学生時代から馴染んでいた作曲家の一人で、彼の作り出した音楽にはお気に入りの作品が多く、過去より大きな影響を受けていた。ライフワークとして取り組んだインストゥルメンタルアルバム「音楽畑」シリーズ(全22作)は、氏の音楽性が結実した作品揃いで、まさに音楽そのものの魅力を伝えてくれていたように思う。個人的には、服部作品の中で「ル・ローヌ」は今も愛奏してやまないピアノ曲として、20年以上弾き続けている。
氏の魅力はアコースティック楽器によるサウンドを基調としながらも、そこに様々なリズム体やデジタルサウンドもうまく組み合わせ、クラシックやポピュラーといったジャンルの垣根を超えた音楽に仕上げる手腕に長けていたことだろう。今回は、追悼として自分にとって思い出に残るアルバムの中からお気に入りの曲をエントリーして当時を振り返り、ご冥福をお祈りしたい。

■自由の大地~「新世界紀行」サウンドトラックより
(1987年作品、ファンハウス国内盤、ジャケット画像上段左)


1987年から1992年にかけて放送され、当時家族でよく観ていたTBSのドキュメンタリー番組「新世界紀行」のサントラに収録されていたメイン・テーマが「自由の大地」だった。オーボエの哀愁漂う冒頭ソロと、それに続くストリングスのメロディが印象的で、映像と音楽が実にマッチしていたのを覚えている。曲後半での転調シーンからは、雄大な自然の光景が浮かんでくるようで、実に感動的な名曲。服部サウンドの魅力に気付くきっかけとなった曲だった。後年、この曲は「音楽畑6」にも収録されたが、ストリングスの豊潤な響きという点で、サントラ盤が気に入っている。自分自身、この曲は学生時代にピアノ版の楽譜で練習していた。なお、本サントラに収録されているオリジナル2曲(「草原の輝き」「風のささやき」)もピアノが奏でる旋律が素晴らしく、癒される。

■アルバム「音楽畑5」(QUATRE SAISON)より
(1988年作品、ワーナー国内盤、ジャケット画像上段中)


サブタイトルの「QUATRE SAISON」は「四季」の意味。同アルバムでお気に入りの曲を3曲。まずは「銀河伝承」。以前本ブログでもエントリーしたロンドン交響楽団との共演によるもので、まさに日本版「スター・ウォーズ」とでもいえる作品。当時、日興証券のCMでも使用されていた。フル・オーケストラによるシンフォニックサウンドもお手のものであることが窺える。以前エントリーした「ファイナル・ファンタジー」の交響組曲の編曲を手掛けていたのもほぼ同時期(1989年)だった。
続いて「五月の草原は愛に包まれて」も昔からのお気に入り。大草原の光景がまさに眼前に広がる感じのシーンが後半に待ち受けていて、感動的。「晩秋のアダージョ」はレコーディング滞在地のロンドンで短期間に書き上げられた曲だというが、ロンドン響のストリングスセクションにヴァイオリン・ソロを掛け合わせた氏のセンスが光る。どこかフランス的な香りが漂うのは、パリのコンセルヴァトワールで学んだ氏のキャリアとも関係があるのかもしれない。

■アルバム「音楽畑6」(Le Monde)(1989年作品)より
(1989年作品、ワーナー国内盤、ジャケット画像上段右)


サブタイトルの「Le Monde」は「世界」の意味。「ジプシー・ローズ」はスタジオミューシャンとして有名なトランペット奏者、数原晋氏のソロが冴えた曲。フラメンコの香り漂う情熱的な曲調で、実にエキサイティング。当時、吹奏楽でトランペットをやっていた自分も、いつかこんなソロがかっこよく吹けたら、と思ったものだ。一方、「コスモス」は宇宙を描いた合唱が織りなす壮大な曲。ここでの合唱はイギリスの著名な合唱団であるアンブロジアン・シンガーズ(指揮:ジョン・マッカーシー)がヴォカリーズで参加しているのも特筆すべきだろう。そして、アルバム最終曲に収録された「コンソレーション」はタイトル通り、“慰め”という意味の曲。その旋律は多忙を極めていた服部氏自身の心境が投影されたような曲で、本人が奏でるピアノに癒される。この曲は学生時代、卒業シーズン前によく聴いていたのを思い出す。今聴いても癒されて、当時を思い出す。

■アルバム「SEASON'S GREETINGS」
(1993年作品、ワーナー国内盤、ジャケット画像下段左下)より


ここでは編曲家として参加した作品を。山下達郎が1993年に発表したアルバム「SEASON'S GREETINGS」の収録曲の内、4曲をフル・オーケストラ用に編曲している。それら曲とは「Be My Love」「Smoke Gets In Your Eyes」(煙が目に染みる)「Blue Cristmas」「Have Yourself A Merry Little Christmas」の4曲。達郎のヴォーカルにストリングスが優しく掛け合い、実にゴージャスな仕上がりとなっている。今でも達郎のライヴで本アルバムのオーケストラ音源をバックに歌われることがあるが、1998年に初めてライヴに接した時に「Smoke Gets In Your Eyes」(煙が目に染みる)が会場に鳴り響いた時は、感動で鳥肌が立ったものだ。ヴィオラとチェロの掛け合いから始まる気品溢れるイントロは、氏の編曲がなければ実現しなかっただろう。先日、山下達郎がパーソナリティを務めるサンデー・ソングブックで、服部克久追悼特集が組まれたが、本アルバムの制作にあたり、達郎自身が、編曲を依頼するべく、家に駆けつけて直交渉したというエピソードが披露されたが、いかに氏の力を必要としていたかが窺える。他にも「FOREVER MINE」「ずっと一緒さ」「希望という名の光」といった名バラードの作品もあり、33年に渡る長い付き合いの成果が、見事に表れている。妻の竹内まりや作品の編曲は達郎を上回る40年の付き合いだという。

■アルバム「音楽畑ベスト・セレクション~ピアノ・アンソロジー」より
(1992年発売、ワーナー国内盤、ジャケット画像下段右下)


締めくくりとして、冒頭でも綴った愛奏曲の「ル・ローヌ」のピアノ版を。元は1986年に発売されたアルバム「音楽畑3」(Bon Voyage)に収録されていた曲。これまでも、そしてこれからも、自分の人生になくてはならない曲になった。詳細は以前本ブログでエントリーしているので、そちらに委ねたい。


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