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今年の師走は仕事帰りのコンサート鑑賞でも忙しい月となった。今月だけで8公演、内、今週は3公演・・・。クラシック版「紅白歌合戦」ともいえるイベントにピアノのリサイタル、そして「第9」公演。いずれもそれぞれ違った視点で楽しめる内容だった。こだわりディスク名盤のエントリーはまた次回として、本年の締めくくりはこの3公演をダイジェストで取り上げたい。来年もよい一年でありますように!

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○青島広志「世界まるごとクラシック」(12月22日 東京国際フォーラムホールA)

キャパ5000人の国際フォーラムを1日2公演とも満席にしてしまう動員力(しかも子供連れのファミリーが中心)、ステージ上には出演者を映し出す巨大なスクリーンの設置、多彩なゲスト出演(ピアノ:清塚信也、ヴァイオリン:川井郁子、合唱:平松混声合唱団)、聴衆をまきこんでの大合唱・・・。まさにクラシック版「紅白歌合戦」というべきイベントだった。
この大イベントの主役は、TV出演でもお馴染みで今やクラシック界のマルチタレント的存在となった青島広志氏(b.1955)。
このイベントの成功はまさに、青島広志のキャラクターなしにはあり得ないだろう。ステージ上では指揮者、ピアニスト、司会の一人4役をこなすという活躍ぶり。

「世界で一番楽しい!クラシックコンサート」というサブタイトルの通り、敷居のないコンサートにしたいのだろう、演奏中の赤ちゃんの泣き声もOKとアナウンスしたり、かぶりものや踊りながらの指揮はユニークそのもの。通常のクラシックコンサートであればあり得ない事がここでは普通に起こるから面白い。こんなに肩の力を抜いて聴けるコンサートはあまりないだろう。

もちろん、クラシックのツボもしっかりと押さえている。彼自身、本業は一流の作曲家なので、編曲もお手のもの。シューベルトの「軍隊行進曲」やモーツァルトの「きらきら星変奏曲」を協奏曲仕立てに編曲した演奏や、ロッシーニの「スターバト・マーテル」のような普段中々聴かれない名曲も取り上げられた。
「メサイア」や「クリスマスキャロル」、「第9」といった年末恒例の要素も全て詰まっているのは、器楽だけでなく、声楽にも造詣が深いこの指揮者ならではの特徴だろう。平松混声合唱団は全日本合唱コンクール金賞受賞の経歴もある実力派だけに、合唱を始めた自分にとっても貴重な機会でもあった。

5000人を収容する国際フォーラムのホールAは、アコースティック空間としては適さないが、大衆性のあるこのようなイベントにはふさわしいのかもしれない(熱狂の日もその点、同様だ)。むしろこのようなイベントをきっかけに、クラシックに興味をもつ人が増える事の方が意義が大きい。のだめのブームが象徴的なように、年齢を問わず楽しめるクラシックコンサートが現代に求められているのかもしれない。

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○清塚信也ピアノリサイタル(12月25日 紀尾井ホール)

前回9月のソロ公演に引き続き、一連のシリーズの最終回となるリサイタルへ。メインプログラムにはストリングス(バイオリン×2、ヴィオラ×1、チェロ×1、コントラバス×1)との共演でショパンのピアノ協奏曲第2番が据えられるが、他にも自作の劇音楽「テンペスト」をベートーヴェンの「テンペスト」と並べたり、武満徹の現代作品にスポットをあてたり、今秋公開の映画「天国はまだ遠く」のサントラ曲(渡辺俊幸及び自作)を演奏したりと、彼のマルチぶりが窺える意欲的なプログラム。

個人的には、武満徹の合唱曲をピアノと弦楽器のデュオにアレンジされた作品(「小さな空」「島へ」「さようなら」)が、シンプルでゆったりとした旋律の中に、武満作品の人間味ある叙情性が垣間見られ、印象的だった。

ヴィルトゥオーゾ弾きとして知られる清塚氏だが、このような武満作品に加え、サントラ曲に負けない心の琴線に触れるコンポーザーとしての才能にも大器を感じさせるだけに、ピアニストとしてだけでなく、クリエイターとしての活躍にも期待したいものだ。
アンコール終曲では、十八番のラフマニノフの協奏曲第2番終楽章を、クリスマス曲のジャズ・アレンジに乗せて演奏。観客からの温かい拍手が印象的なコンサートだった。

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○レナード・スラットキン&NHK交響楽団:「第9」公演(12月27日 NHKホール)

仕事納めの翌日、N響の第9公演へ。N響は7月に聴いたファビオ・ルイージの公演以来。レナード・スラットキンといえば、どうしてもアメリカ音楽(以前もセントルイス響とのマーチの名盤をエントリーしたり、ここ最近も今年生誕100周年記念したルロイ・アンダーソン作品のレコーディングに取り組んでいる)のエキスパートというイメージがあるが、そんな彼が、どんなベートーヴェンを聴かせてくれるかを楽しみにしていた。既に64才、初老になっていた。

この日の公演はスラットキン&N響の一連の第9公演(4回)の最終回。客層は純粋なクラシック・ファンというより、第9を聴くのが毎年の恒例行事となっていると思しき人達(全体的には中高年が多そう)が多かった。彼らにとっては、「年越しそば」ならぬ、「年越し第9」なのだろう。自分が座ったは\13,000する2階席のS席だが、N響とはいえ、1曲で\13,000というのはやはり高い。それでもほぼ満席となるのは、需要と供給が合うからこそで、「第9」が日本のオケのドル箱公演といわれる所以なのだろう。

演奏は、4楽章のテノールのソロから急エンジンがかかってきた。ジェスチャーを交えたウォルター・プランテの独唱はまるでオペラを観ているよう。「おお友よ、兄弟よ」と呼びかけるシラーの詞の意味合い的にも共感が持てるシーンだった。
国立音大の合唱には、もう少し味わい深さが欲しかったが、昨年聴いた第9は高齢者中心のアマチュア合唱団だっただけに、スタミナやパワーの点では雲泥の差。大学生ならではのフレッシュで若々しい声を聴かせてくれた。
スラットキンの棒さばきも鮮やかで、コーダにかけての突進ぶりは白熱しており、熱狂的な拍手が沸き起こった。

今年は特に不景気な年だっただけに、来年への願掛けとして聴きに来られた方もいることだろう。景気の早い回復を願いたい、そんな世相の現れも感じる第9公演だった。