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同じ楽器だけでアンサンブル演奏を行ったらどうなるか・・・こんなユニークな発想で、ロンドンの複数の一流オケから、楽器毎にプレイヤーを集め、数々のアルバムをリリースしているCALAレコードの芸術監督兼指揮者のジェフリー・サイモンが、またもユニークな最新アルバムを届けてくれた。
ホルン奏者16人によるビッグバンド編成のジャズアルバム。既にホルンのアルバムとしては同編成でクラシック作品をフィーチャーした第1作目のアルバムがあり、これが第2作目となる。今回も斬新な企画アイデアに驚かされるが、これがまた成功。オケのホルン奏者達が、これほどまでにジャズにも精通しているとは!

世の中にジャズ・トランペットやジャズ・トロンボーンに比べると、ジャズ・ホルンは普段あまり聞かないが、そこはやはり金管楽器。クラシック界でもジャズを演奏するホルン奏者は多い。実際、シカゴ響のデイル・クレヴェンジャー元ロンドン響のバリー・タックウェルにもジャズ・プレイヤーと共演したアルバムがある。今回の参加メンバーには、フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルの元メンバー、フランク・ロイド(b.1952)もいる。

収録曲は以下の通り。

1.Los Jaraneros(Bissill)
2.Not Like This(Lubbock/arr. Bissill)
3.Give It One(Ferguson/Downey  arr. Bissill)
4.Fat Belly Blues (Bissill)
5.The Trolley Song (Blane&Martin/arr.Bissill)
6.Daydream(Ellington&Strayhorn/arr.Rattigan)
7.Caseoso(Jim Rattigan)
8.Three Point Turn(Timothy Jackson)
9.Lana's Lullaby(Timothy Jackson)
10.The Way We Were(Hamlisch/arr. Simcock)
11.God Bless The Child(Holliday&Herzog/arr. Simcock)
12.Blues For Hughie(Gwilym Simcock)

ジェフリー・サイモン指揮
ロンドン・ホルン・サウンド・ビッグ・バンド
('07年12月録音、Air Studio Londonにて収録、CALA輸入盤)


1曲目「Not Like This」からホルンの咆哮するサウンドが炸裂!通常、オケでは7~8人いれば大所帯といえる人数なだけに、16人という規模の大きさが窺える。それでもサウンドがうるさくなりすぎないのは、朝顔が表を向いていないホルンならではの構造もあるのかもしれない。
作曲及びソロを担当するRichard Bissillは参加メンバーの一人で、ロンドン・フィル首席兼ロンドン・ブラスのソロ奏者。12作品中、2作品の作曲と、3曲の編曲に携わっているだけでなく、アドリブ・ソロでも全編に渡って活躍。特に映画「追憶」のテーマとして名高い10曲目「The Way We Were」でのソロは聴き所の一つ。今回のアルバムの立役者の一人といえるだろう。

アルバムのタイトルになっている3曲目「Give It One」はハイトーンと激しいリズムで一気にボルテージが上がる。それもそのはず、ハイノート・ジャズ・トランペッター、メイナード・ファーガソンの代表曲。ここでアドリブ・ソロを聴かせるPip Eastopはロンドン室内管の首席奏者。
7曲目「Caseoso」と8曲目「Three Point Turn」では16人中、4人がワーグナーチューバに持ち替えている辺りの音色の変化にも注目したいし、「Three Point Turn」ではフランク・ロイドのソロが聴けるのも嬉しい。なお、この8・9曲目はフィルハーモニア管弦楽団の第3奏者、Timothy Jacksonの曲。作曲家としても活躍しているメンバーの多才ぶりに驚かされる。

12曲目「Blues For Hughie」も参加メンバーの一人、ジャズ・ピアノ奏者でありホルン奏者のGwilym Simcockの曲。自分自身、一番お気に入りとなった曲で、途中のフーガで聴かせる7人のソロや、ピアノとの掛け合い、また全体のリズム感といった所がまさにジャズ!

それにしてもため息が出る程巧い!普通に聴けば、普段クラシックを取り上げるオケ奏者が演奏したアルバムとは全く分からない程だ。アンサンブルとしての息の良さもぴったりで、愉悦感に浸らせてくれる。

ジェフリー・サイモンの企画アルバムを本ブログで取り上げるのもこれで3回目(ヴァイオリンチェロ)だが、毎度の卓越した企画力にうなされる。不況の風吹く中、元気さを漂わせてくれる企画アルバムだ。