最近、クラシックの世界では過去の名盤LPの復刻音源のリリースが活発なようだ。「オタケンレコード」レーベルからこの度リリースされた、ブルーノ・ワルターが晩年にコロンビア交響楽団と残したブルックナーのLP音源もその一つ。何といっても米コロンビアのデモ用非売品LPの新品同様の盤から音源が復刻されるという、ワルター・ファンにはたまらないお宝もの。
当初、ブルックナーのようなダイナミックレンジの広い曲はLP音源は苦手とするところでは…という先入観を抱いていたが一聴して一変。音には奥行感があり、サウンドから感じるみずみずしさはまさにLPならではのもので、ブルックナーを悠々と余裕で鳴らしていた。
改めて同アルバムの収録は以下の通り。
○ブルックナー:交響曲第9番ニ短調
録音:1959年11月
原盤:米コロムビア MS-6171
○ワーグナー:ジークフリート牧歌
録音:1959年2月
原盤:米コロムビア MS-6507
ブルーノ・ワルター指揮
コロンビア交響楽団
※いずれもカリフォルニア州ハリウッド、アメリカ在郷軍人会集会ホールにて収録
ブルックナーのような作品を演奏するには、残響成分の多いホールの使用が欠かせないが、セッション録音のメイン会場だったリージュン・ホール(同アルバムでは「アメリカ在郷軍人会集会ホール」と具体的表記がされている)のふくよかなホールトーンがたっぷりと感じられるのがまず嬉しい。
また、ストリングスを中心としたコロンビア響の口当たりの良い柔らかなサウンドも聴きもの。これまでの一連のCDリミックス音源では、解像度が高い分、高音域が固めのソリッドなサウンドが時に気になっていたが、この復刻音源では、みずみずしい音質が保たれている。LP特有のヒスノイズは敢えて残す事で、ある意味、添加物を加えない自然な状態となっているのだろう。
コロンビア交響楽団とのブルックナーの交響曲は、4番、7番、9番の録音が残されているが、モーツァルトやベートーヴェンのセッション録音と比較すると、ブルックナー作品はコロンビア響にはサウンド的にもやや不向きなのでは・・・というこれまでの先入観は今回、見事に覆され、ワルターが手塩にかけたセッション・オケならではの質の高さを感じる事ができた。カップリングされた「ジークフリート牧歌」も、ベートーヴェンの「田園」を感じさせるワルターにぴったりな選曲。
LPならではの良さをCD上で実感するというのは、ある意味不思議な体験だが、こういう復刻音源にはこれからも目が離せなくなりそうだ。