ロイヤル・ウェディング選の締めくくりとして、英国作曲家の重鎮、ジョン・ラター(b.1945)の声楽曲を。兄のウィリアム王子と弟のヘンリー王子のロイヤル・ウェディングに共通していたのはジョン・ラター(b.1945)の音楽が奏でられていたこと。過去、本ブログでもセントポール大聖堂聖歌隊の歌う「God be in my head」を取り上げたことがあるが、彼の作り出す音楽が、今や英国王室の御用達になっていたことに感心した。親しみやすい旋律と、演奏効果映えもする数々の作品に、彼が「現代のフォーレ」と言われる理由もわかるような気がする。振り返れば、自分自身、ラターの声楽曲の魅力を知ったのは学生時代に他大学の女声コーラス部の演奏会で聴いた「マニフィカト」だった。ここにロイヤル・ウェディングで歌われた2曲のアンセムをエントリーしたい。
■ジョン・ラター作曲「This is the day」
①聖歌隊&パイプオルガン版
ジェームズ・オドネル指揮 ウェストミンスター寺院聖歌隊
(2011年4月29日録音、ウェストミンスター寺院にて収録、DECCA海外盤、ジャケット画像左上)
②混声合唱&オーケストラ版
ジョン・ラター指揮 ケンブリッジ・シンガーズ&オーロラ・オーケストラ
(2012年1月録音、Cathedral and Abbey Church of St Albanにて収録、Collegium Records海外盤、同左下)
2011年のウィリアム王子とキャサリン・ミドルトンのロイヤル・ウェディングの為に同年に作曲されたアンセム。ロイヤル・ウエディングでは①によって演奏されたが、その翌年の2012年に王室音楽をテーマとして制作されたアルバム(「THIS IS THE DAY」)で、彼が1981年に創設した混声合唱編成のケンブリッジ・シンガーズに室内オケの伴奏を加えた②によって録音された。
ロイヤル・ウェディングの為に作られた曲だけに、タイトル通り祝福に満ち溢れ、且つ親しみやすい曲調となっている。聖歌隊版はパイプオルガンが加わっており、教会ならでは神聖さを感じさせるが、一方の混声合唱版は、コンサートシーンでの演奏が意識されており、よりポップで大衆性を帯びたものとなっている。
■ジョン・ラター作曲「The Lord Bless You and Keep You」
①聖歌隊&パイプオルガン版
ジェームズ・ヴィヴィアン指揮 セント・ジョージ礼拝堂聖歌隊
(2018年5月29日録音、セント・ジョージ礼拝堂にて収録、DECCA海外盤、ジャケット画像右上)
②混声合唱&オーケストラ版
ジョン・ラター指揮 ケンブリッジ・シンガーズ&ザ・シティ・オブ・ロンドン・シンフォニア
(1983年頃録音、Collegium Records海外盤、同右下)
2018年のヘンリー王子とメーガン・マークルのロイヤル・ウェディングの中で歌われたアンセム。元々、ケンブリッジ・シンガーズの創立まもない1983年に発表されたアルバム(「Gloria」)にて10曲からなるアンセム集の中の一曲に納められていた。「This is the day」と同様、親しみやすい曲調で、冒頭部はしっとりとしながらも、徐々に盛り上がる後半部の「Amen」が感動的で、敬虔な気持ちにさせてくれる曲。初めて聴いても心の中にすっと入ってきて、癒しに満ちた力を持っている。
思えば自分自身、ロンドンを初めて訪れたのが、偶然にも母であるダイアナ妃が事故死で亡くなった1997年8月31日の当日の朝だった。当時、ウィリアム王子は15歳、ヘンリー王子は12歳。滞在時、英国民が悲しみにくれていたのを思い出す。あれから20年の歳月が経ち、二人の成長した姿を天国にいるダイアナも心から祝福したことだろう。当時、ウェストミンスター寺院やセントポール大聖堂で聴いたふくよかな残響が今もって懐かしい。
なお、ラターは先にエントリーしたパリーの結婚行進曲などを含め、ロイヤル・ウェディングに関わる曲の編曲にも携わっており、今や王室音楽にとって欠かせない作曲家であることが窺われる。御年73歳、これからも英国音楽を代表する作曲家として多くの人々に癒しを与えてほしい。
【こだクラ関連ブログ:ロイヤル・ウェディング選】
■英国音楽の魅力再発見!チャールズ・ヒューバート・パリーの「結婚行進曲」~ロイヤル・ウェディング選
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