今年はショパンの生誕200周年。今年はそんなショパンのアニバーサリーを祝うイベントが様々な所で行われている。その代表的なものが、ここ数年来、国内で最大の賑わいを見せるクラシックの祭典、「ラ・フォル・ジュルネ(熱狂の日)」でショパンがテーマに取り上げられた事かもしれない。自分なりにショパンを祝おう・・・という事で、ショパンの中でも人気の高い「幻想即興曲」を棚から一つかみ。8枚のディスクに収められた「幻想即興曲」を、あえてブラインド状態で聴いてみた。ピアニスト名を伏せて聴くことで、先入観を持たず、純粋な聴き方が出来たように思う。ここでは録音年代順に並べているが、以下、ブラインドで聴いた印象を綴ってみたい(ジャケット画像:左上より時計回り)。
○タマーシュ・ヴァシャーリ
(1965年5月録音、ベートーヴェン・ザール、ハノーヴァーーにて収録、グラモフォン海外盤)
ヴァシャーリ盤は、繊細とか上品、というよりは、どこか荒削りでごつごつした肌触りを感じさせる演奏。まだ若かりし頃の録音なので、年齢的な所も関係しているのかもしれない。本ブログでは、以前、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番や、指揮者としての一面もあるモーツァルトのアルバムをエントリーしていた。
○ベラ・ダビドヴィッチ
(1981年2月録音、ロンドンにて収録、PHILIPS海外盤)
ダヴィドヴィッチ盤は、今回取り上げた8枚の中で最もテンポのゆるやかな演奏。聴き方によっては、情熱とか、気迫といったものを求めたい向きもあるが、ここでは、優しさの滲み出たショパン、といったらいいだろうか、彼女自身のショパンに対する思いが表れているようにも感じる。ダヴィドヴィッチは、以前、ショパンのアルバムをエントリーした際に、お気に入りのピアニストとして取り上げていた。
○クリスティーナ・オルティス
(1986年録音、ヘンリー・ウッド・ホール、ロンドンにて収録、ファンハウス国内盤)
本ブログでは初登場のピアニスト。全体的に早いテンポで突き進み、中間部もさらったとした口当たり。そこに情熱を感じる演奏は、ブラジル出身の彼女ならではのラテンの血も感じるところ。録音がクリアにとれているのも嬉しい。
オルティスは1969年のヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールでの優勝者。
○ルドルフ・ブッフビンダー
(1987年11月録音、Historischer Reitstadl、Neumarktにて収録、EMI国内盤)
今回聴き比べをした8種類の中で、特にお気に入りとなった幻想即興曲。安定感があり、演奏から醸し出される重厚感は、質実剛健という言葉が似合う。ブッフビンダー(b.1945)は、N響アワーでもよく見かけるウィーン出身のピアニスト。1966年のヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールでは特別賞を受賞している。
○ハワード・シェリー
(1992年11月録音、セント・シラス・チャーチ、ロンドンにて収録、CHANDOS海外盤)
以前、ガーシュウィンやモーツァルトのピアノ協奏曲でエントリーしているお気に入りのピアニスト。スマートでスタイリッシュな幻想。テクニカルな面にかけては8人の中でも抜きん出ているように感じるが、その分、ダヴィドヴィッチ盤で感じられた詩情的な面では少し薄いかもしれない。ピアニスティックに長けた演奏。
○アレクセイ・スルタノフ
(1996年3月31日録音、紀尾井ホール、東京にて収録、Sacrambow国内盤)
以前、チャイコフスキーとラフマニノフの2大コンチェルトでもエントリーしたスルタノフの日本来日公演時の貴重な録音。内面的に充実した演奏で、ショパンの詩情を感じさせる。そのせいか、全体を通じ、どこかに暗さを感じさせる面も。陰と陽なら、完全に陰に属するだろう。どういう版を用いているのか分からないが、部分部分で、独自の装飾が施されている。スルタノフ自身の即興によるものなのかもしれない。1989年のヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールでの優勝者。偶然にも、オルティス、ブッフビンダー、スルタノフには接点があった。
○清塚信也
(2008年1月録音、ヤマハピアノ・テストスタジオにて収録、ワーナー国内盤)
日本のピアニストからも2点のアルバムを。一人は若手人気ピアニスト、清塚信也氏によるもの。フィギュア・アルバムに収められていた一曲。フィギュアの世界でも幻想即興曲が演技曲として使用される時代に。こちらもどこか暗さが漂うあたり、スルタノフ盤との共通点を感じる。録音がややオフ・マイク気味なのが惜しい。
○中園理沙
(2009年11月ソニー・ミュージックスタジオ乃木坂にて収録、アニプレックス国内盤)
人気上昇中の若手女性ピアニスト、中園理沙氏の演奏によるもの。ディズニーの名曲をショパン風にアレンジしたアルバムの最終曲として収録されている。幻想即興曲に込められた曲想が余すところなく表現されている。