以前、エントリーした「レイア姫のテーマ」に続き、今回は「王座の間とエンド・タイトル」を。スター・ウォーズの楽曲の中で一番好きな曲はどれかと問われたら、即座に「王座の間とエンド・タイトル」と答えるだろう。スター・ウォーズの1作目(エピソードⅣ)となるエンディングで、レイア姫が勲章を授けるシーンで流れるのがこの曲。その後、演奏会組曲として拡張され、王座の間のシーンでは「フォースのテーマ」と「反乱軍のテーマ」、そしてそのままエンディングロールの「スター・ウォーズのテーマ」に突入するという構成。スター・ウォーズのエッセンスが詰まっていて、メドレー風な楽曲でもある。聴き所が多いだけに、オケのスター・ウォーズに対する演奏レベルが分かってしまうのが興味深いところ。今回、こだクラで所有する7つのディスクを改めて聴き比べしてみたい。
前半は数々の苦難を乗り越えた戦士達の勇壮さと勝利の栄光、後半はスター・ウォーズのテーマを奏でるワクワクさをいかに再現できるかがポイントだ。
《♪まずは作曲者ジョン・ウィリアムズ指揮によるものを・・・》
■ジョン・ウィリアムズ指揮 ロンドン交響楽団(ジャケット画像:上段左)
(1977年3月録音、アンヴィル・スタジオにて収録、RCA海外盤)
まずはサントラ盤を。組曲版に拡張される前の原曲となったこれぞザ・オリジナル。スター・ウォーズのサントラデビューとなったロンドン響による活気ある演奏が聴ける。トランペットのモーリス・マーフィー(1935-2010)の音が聴けるのも嬉しいが、エンディング・シーンで使用された曲だけに場面転換に合わせた時間の制約があったのだろう、冒頭からどことなくせわしく、そっけなく感じるのも事実。オリジナルならではのスリリングさは感じられる反面、どこか物足りなさも残る。
■ジョン・ウィリアムズ指揮 スカイウォーカー・シンフォニー・オーケストラ(ジャケット画像:上段右)
(1990年3月録音、スカイウォーカーランチにて収録、ソニー・クラシカル海外盤)
「スカイウォーカーランチ」は監督ジョージ・ルーカス(b.1944)が作り上げたルーカス・フィルムの本社スタジオ。オーケストラメンバーは録音の為に集められたプレーヤーのようだ。スター・ウォーズの大成功を受け、ルーカスは自分の持つスタジオでジョン・ウィリアムズ(b.1932)に改めて3部作の代表曲をレコーディングしておきたい気持ちがあったのだろう。それだけに音源はサントラに近い音場で収録されている。ジョン・ウィリアムズもスクリーン上の制約から離れ、思い通りにタクトを振った演奏には仕上がっているものの、どことなく無難な演奏に終始しており、冒頭のフォースのテーマもやや勇壮さに欠けた印象を受ける。個人的には彼と長年連れ添ったボストン・ポップスとの音源を是非聴きたかったものだ。
《♪共に1977年に録音された初期の組曲音源より》
■ズービン・メータ指揮 ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団(ジャケット画像:中段左)
(1977年12月録音、ロイスホール、U.C.L.A.にて収録、DECCA海外盤)
過去にもエントリーした音源。演奏会組曲版の第一号となる貴重な音源。最初に出会ったのはカセットテープ版で、はや30年以上愛聴しているマイベスト盤。マイベスト盤の理由はまず第一に首席トランペット、トーマス・スティーヴンス(1938-2018)の素晴らしいパフォーマンス。「フォースのテーマ」で奏でられる勇壮さと重厚さ、高潔さは、ある意味、彼の音そのものといっても過言ではない。また、「反乱軍のテーマ」で奏でるストリングスも充分な品格を称えている。ズービン・メータ(b.1936)の手腕が発揮されるのは特に後半の「エンド・タイトル」で、前半とは打って変わり、アクセルをぐっとかけ、映画のエキサイティングなシーンを見事に描ききっている。
最近、2009年から音楽監督を務めるグスターボ・ドゥダメル(b.1981)指揮によるロス・フィルとの演奏もTVでオンエアされたが、録音から40年を経た今でもロス・フィルとスター・ウォーズの相性の良さを窺わせてくれた。現在のロス・フィルよる新録音も期待したいものだ。
■チャールズ・ゲルハルト指揮 ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団(ジャケット画像:中段中)
(1977年12月録音、キングスウェイホールにて収録、BMG国内盤)
上述のメータ盤と同じ年月の1977年12月録音。カップリングの「未知との遭遇」も同じという、当時互いのセールスを競ったと思われるアルバム。しかし、今回エントリーしたディスクの中では最も期待外れな音源で、冒頭の「フォースのテーマ」で奏でられるトランペットは小気味よさはあるものの、さらっとしすぎて勇壮感は感じられない。その後の「反乱軍のテーマ」でも弦は良く鳴ってはいるが、それに続くトランペットセクションのコラールはまたさらっとし過ぎた感が残る。ナショナル・フィルはロンドンの在籍オケを中心としたフリーランスなオケだが、ややスタジオワーク的な演奏となってしまった感が残った。
《♪人気ポップス・オーケストラによる音源》
■エリック・カンゼル指揮 シンシナティ・ポップス・オーケストラ(ジャケット画像:中段右)
(1984年9月録音、ミュージック・ホール、シンシナティにて収録、TELARC海外盤)
今回エントリーしたディスクの中では最も遅くに入手した音源。全体的にバランスのよい演奏で、聴かせ所のツボが押さえられた好演。冒頭のトランペットはやや軽めに感じるものの、「反乱軍のテーマ」の後半で、トランペットがコラールを吹き上げるバックで、ホルンの対旋律が前面に出てよく鳴っていたのが心地良かった。結果としてワーグナー的な立体効果がもたらされ、サウンドに深みが増すというユニークな発見があった。この辺り、カンゼル(1935-2009)ならではの音楽性が光った一面といえるだろう。低音が全体に強調され、サントラ的な迫力が出ているのもTELARCレーベルならではか。メータ盤に続くマイベスト盤。
《♪日本のオケによる音源。貴重なライヴ音源も》
■沼尻竜典指揮 日本フィルハーモニー交響楽団(ジャケット画像:下段左)
(2001年4月録音、大田区民ホール アプリコ大ホールにて収録、キングレコード国内盤)
ここから日本のオケによる音源を。アルバム「シンフォニック・フィルム・スペクタキュラー2」に収録。前半はトランペットがよく頑張っているが、ストリングスが全体的にやや薄くおとなしいのが残念。ホルンもややインパクトに欠ける。しかしながら曲展開は心地よく、メータ盤のような「エンド・タイトル」でのアクセルのかけ方もうまい。日本のオケによるスター・ウォーズの代表的な音源といえるだろう。録音については残響がやや過度に響きすぎていたのが気になった。
■山本直純指揮 NHK交響楽団(ジャケット画像:下段右)
(1989年7月31日録音、NHKホールにてライヴ収録、キング・インターナショナル国内盤)
こちらも過去にエントリーした貴重なライヴ音源。日本が誇る当時最強のトランペットセクションの音と、N響のゴージャスなサウンドに満たされる。冒頭の「フォースのテーマ」からパワー全快で、その勢いのよさは今回エントリーしたディスクの中で軍を抜いている。後半もエキサイティングなサウンドが展開され、ライブゆえにN響のパワーが炸裂した名演となっている。この時期は今は亡き祖堅方正氏や、引退した津堅直弘氏らが在籍しており、黄金期のトランペットセクションのサウンドが聴けるのが嬉しい。N響が活き活きとした演奏を聴かせているのは指揮者の山本直純氏(1932-2002)のパフォーマンスが存分に発揮されている所以だろう。山本直純氏は1988年のNHKの大河ドラマ「武田信玄」のオープニングでN響と勇壮なテーマ曲を作曲しているが、戦国武将を音楽で描いた彼にとって、スターウォーズはぴったりな選曲だったといえるだろう。メータ盤、カンゼル盤と並ぶマイベスト盤となった。
【こだクラで過去に取り上げた「スター・ウォーズ」関連のブログ】
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