自分にとって今年最大の目玉の一つになるであろうロンドン交響楽団の来日公演(3月10日 横浜みなとみらいホール)を聴く。本公演はツアーの最終日の横浜公演。 半ば諦めていたが、運よく当日券でS席を購入、17列目上手側の全体を見渡せる位置で鑑賞できた。
最大の関心時は、オケがロンドン響である点。今回で3度目に接する実演となるが、伝説の名トランペット奏者モーリス・マーフィーも2年半前に亡くなり、世代交代の進んだロンドン響のサウンドの“今”を確認したかった。
また、もう一つの関心時はベルナルト・ハイティンク指揮によるブルックナーが演目に入っていた点。ハイティンクのブルックナーに接するのは学生時代の最後の夏休みに聴いた1997年のロンドンでのプロムス公演以来、今回で2度目。しかも、プログラムは当時と同じベートーヴェンのピアノ協奏曲(第4番/ピアノ:エマニュエル・アックス)、ブルックナーの交響曲(第7番)という偶然も重なった。ブルックナーのスペシャリストでもある彼がまもなく84歳(b.1929)になろうとする年齢に達して至った境地を是非聴いてみたかった。演目がまだ実演に接していない交響曲第9番であった事もポイント。今公演のプログラムは以下の通り。
○ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第2番変ロ長調
○ブルックナー:交響曲第9番ニ短調(ノヴァーク版)
指揮:ベルナルト・ハイティンク
ピアノ:マリア・ジョアン・ピリス
ロンドン交響楽団
演奏順に感想を綴ってみたい。前編として、まずはベートーヴェンを。世界を代表する女流ピアニストのマリア・ジョアン・ピリス(b.1944)がどんな演奏を聴かせてくれるかが楽しみなところ。オケは対向配置、金管はホルン(2名)の小編成。
ステージに現れたピリスはレコードジャケットから想像していたよりも、予想以上に小柄な人だった。ストリングスの軽やかで澄みきった前奏の響きに、ロンドン響が以前レコーディングしたルドルフ・ゼルキンによるモーツァルトのピアノ協奏曲(指揮:アバド)を思い出す。
ピリスの演奏は精緻且つ室内楽的とでもいうべきで、自分の個性を出そうというよりは、オケに寄り添いながら、調和を目指すタイプの演奏。最近はソリストとしてだけでなく、ヴァイオリンやチェロ等、室内楽での活動も増えている所にも要因があるのかもしれない。元々、メジャーで華やかな演奏効果のある第4番や第5番「皇帝」の協奏曲ではなく、第2番を選んだのもピリスなりの意図があっての事なのだろう。
ピアノはヤマハ。曲の性格もあってか、ピアノの音色も外向さを狙ったものではなく、どちらかといえば内省的で温かみのある音作りを感じた。何より、誰もが認めるトップピアニストでありながら、テクニックを誇示せず真摯にピアノに向かい合う姿に好感を持てた。カーテンコールで何度も呼び戻されながらも前半が終了する。(後編のブルックナーの交響曲第9番へ続く)