CD店のクラシックコーナーに足を運ぶと、店内のBGMに一目惚れならぬ一聴惚れしてしまう音源に出会うことがたまにある。今回エントリーする、J.S.バッハの「ヴァイオリン・ソナタ集(オブリガート・チェンバロとヴァイオリンのためのソナタ集)」がまさにそうだった。
太陽の光をさんさんと浴びたような、開放感のあるヴァイオリンとチェンバロの音。風を切るような爽快感溢れるテンポ。聴いている内に、エネルギーが満ちてくるのを感じた。そのアルバムは以下の音源。
J.S.バッハ:ヴァイオリン・ソナタ集
第1番ロ短調 BWV.1014
第2番イ長調 BWV.1015
第3番ホ長調 BWV.1016
第4番ハ短調 BWV.1017
第5番ヘ短調 BWV.1018
第6番ト長調 BWV.1019
イザベル・ファウスト(ヴァイオリン)
クリスティアン・ベズイデンホウト(チェンバロ)
(2016年8月18-24日録音、ベルリン、テルデックス・スタジオ、ハルモニア・ムンディ海外盤)
ヴァイオリンを演奏しているのはイザベル・ファウスト。彼女は1972年生まれのドイツ出身の女流ヴァイオリニストで、既にバッハを含む主要作品を多くレコーディングしており、ハルモニア・ムンディレーベルを代表する看板アーティストな一人となっている。そういえば、2009年に聴いた東京都交響楽団の公演に出演していたから、自分も生演奏を聴いていたアーティストだった。一方のチェンバロは1979年生まれの南アフリカ出身のクリスティアン・ベズイデンホウト。ファウストとはコンサートも含め共演歴が多いようだ。
全体の印象としては、以前、Alphaレーベルのアルベルティーニ作品の音源をエントリーしたことがあるが、その時の印象に近い。粘着性のないさらっとした音、ノン・ビブラートな古楽器奏法がそう感じさせたかもしれない。実際、ここでは17世紀に作られた名器、ヤコブ・シュタイナーが使用されているという。しかしながら、素晴らしいのは、ヴァイオリンとチェンバロのアンサンブルの妙。ここではヴァイオリンが主、チェンバロが従という主従関係はない。どちらも対等で、早いパッセージの楽章も一糸乱れぬアンサンブルを聴かせてくれる。もはやテクニックの域を超え、音楽の核心に迫るものが、彼らの演奏にはある。
中でも気に入ったのはBWV.1015の第4楽章、BWV.1016の第4楽章、BWV.1019の第5楽章。音が真っ直ぐに空間に放たれ、音楽となる瞬間に立ち会っているような臨場感と音楽への純粋な感動がある。バッハという大作曲家の天性の才能を改めて知る思いがする。
店内のBGMで聴いて時にも感じたが、これは休日のひととき、コーヒーなどを飲みながらくつろぐときのBGMにもぴったりだと思った。数あるバッハの名盤に新たな名盤が加わった。今後のこだクラのマストアイテムになるのは確実だ。
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